第578話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう②
たった一人で帝国で戦う。自殺志願者の言葉だ。そんなものが私の聞きたかった答えなのか。
あの後、お頭は情報網を解放し、即時撤退を指示した。
私達も盗賊組合をすぐに引き払い、アジトに戻った。
今回のことをリープクネヒトとゆっくり話をしてみたかったが生憎とそんな時間が取れなかった。
なぜだが、リープクネヒトなら親身になって聞いてくれるような気がしたからだ。
そして、私のこの漠とした気持ちに方向性を与えてくれるような気もした。
アジトまでは春日井真澄とメッテルニヒが同行した。
正直、メッテルニヒだけは二度と関わりあいになりたくなかった。
彼女に見つめられると今でも底冷えの恐怖を味わう。
どうやら、任務の一貫として春日井真澄に同行するらしい。
しかし、春日井真澄はメッテルニヒに対しては冷たい。私の時は随分、親身だったのに。
春日井真澄に邪険にされると私に興味の矛先が飛んできた。
虎に可愛いがられるというのはこんな気持なのだろうか。
ひとなでされるだけで寿命が縮む。
機嫌を損ねないように必死になって接待した。
私の少ない引き出しの中から精一杯絞りだして、話を繋げた。
その際、リープクネヒトの話をするとひどく驚いていた。
一体、何者なのだろう、彼女は。
アジトに着くと、すぐに別れの時は訪れた。
多分、ここで春日井真澄は契約更改だ! とか言って助けを求めてくるに違いない。
そう思い込んでいた。
まあ、知らない仲でもない。
助けを求められたら渋々だが助けてやるつもりだ。
何なの? その先を急ぐ態度。
まったく、焦らすのが上手いな。
いいの? その態度で?
早く助けを求めろ。
しかし、待ってる言葉はとうとう発せられなかった。
最後の最後にまた、方針転換をして、私達に助けを求めてくる。そう期待していたがそんなことはなかった。
淡々と別れを告げられただけだった。
春日井真澄が去った後、胸にひどく大きな空洞が空いた気分だった。
そんな様子を見てだろうか、お頭から休養を命じられた。
誰かと話をしたい気分ではない。一人きりになりたい。
私はまた、山に登った。
久しぶりに一人になって考えれば、あの女と会うのもあれが最後だったのかもしれない。
そんな考えが浮かんできた。
帝国にたった一人で戦争を挑む。その先にあるのは明瞭な死だ。
子供でも考えれば分かる。
逃げたいとは思わないのだろうか。
いや、思っていてもあの女はその選択肢だけは絶対に選ばない。
それだけは確信があった。
だとすれば、多勢に無勢で殺されるのか…
あれほどの人物が。
もったいない。
私に無い全てのものを持っているのに容易に命をドブに捨てる。
何が彼女をそこまでさせるのだろうか。
郷土愛ではないな。彼女は異界人だ。クロサガ王国の人間ではない。
使命感だろうか?
だとすれば、どんな義務を負っているんだ? それを為すことでどういう見返りがあるのだ?
不意に自らの王たらんとありたい。その言葉を思い出した。
あれはどういう意味だったのだろう。
自分の道は自分で決めるそんな単純なことだったのだろうか。
誰もがそれを求めているはずだが、現実にはそれは不可能だ。
制約のない環境に生きている者など、皆無だし、人は誰かに頼らねば生きていけない。
無性にあの言葉の真意を尋ねたくなった。
しかし、春日井真澄は【フォリー・フィリクション・フロック】の契約を切ってしまったのだ。私達が手を貸す道理がない。
下手をすれば、もう一生会わない可能性もある。
どうしたものか。
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