第576話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ㉓
あの女と【皇帝】が問答を始めた。
互いに開戦前の戦争の当事者同士なのに。
こいつら何をやっているんだ。
今なら逃走することも容易い!?
いや、警戒されてない私なら【皇帝】を殺れるか?
その考えが閃いた瞬間、特大の殺気が飛んできた。
全身に脂汗が流れる。
メッテルニヒだ。
2人の問答を邪魔すれば、殺る。
自分が死ぬイメージが明瞭に見えた。
これ以上ないほど、ハッキリと。
二度と皇帝を殺したいとは思えない。
心の心底に永劫に消えることのない恐怖が刻印される。
メッテルニヒのとぼけた態度は完全に擬態だ。
あれは殺すことにかけては神の領域に踏み入っている。
ふと、隣を見ればお頭も全身に脂汗をかいている。
お頭も隙あらば、【皇帝】を殺ろうと機会を窺っていたのだ。
しかし、ことごとくメッテルニヒに潰される。
達人者級のお頭でもモーションに入れない。
それでもお頭は流石の強さでさらなる機会を窺う。
絶対に【皇帝】抹殺の好機を諦めない。
この絶対的な心の強さが凡人と達人者級との違いなのか。
私では絶対にたどり着けない境地だと今、分かった。
というか絶対に立ち入りたくない。
ここは地獄だ。
私達が視線戦をやっている間もあの女と【皇帝】との問答は続く。
話はなぜか国家経営論、幸せとは何か、人はどう生きるのが正しい? の問答になっている。
こいつら、墓場で何をやっているんだ。
しかし、この女、無能領主と評判で領地から追放されたと聞いている。
なのに何でこんな難しいことまで喋れるのだ。
お頭なみの強さを持ちながら、そこまでの頭脳と美貌も持つ、ハッキリ言って反則だろう。
おまけに胆力と交渉力まである。
今も私達を説得した胆力と交渉力を存分に使い、【皇帝】相手に一歩も引かず、交渉を継続している。
しかも、どういうわけか押してさえいる。
いや、確実に押している。
【皇帝】の顔色が変わった。
なんだか論破してしまった雰囲気だ。
その証拠に皇帝はとんでもないことを言ってきた。
攻めてきた相手を逆リクルートしてきた。
この広大な帝国で教育長官のポスト。しかも、部下は絶対服従の約束付き。
って、あれ!?
私達、【フォリー・フィリクション・フロック】もまとめてリクルートしてくれるのか!?
思わず、頰が緩む。
冷静沈着なお頭の眉がピクリと動いた。
悪くない話と捉えたのだろう。
私たちにはそんな難しい政務には参加できない。おそらく、あの女の護衛兼お付として雇われたのだろう。
ハッキリ言ってあの女の付録だ。
それでも帝国が雇用してくれるなら一生を安定した生活で送れる。
あの女も自分を裏切った領地で働くより気分がいいだろう。
問題は私の感情だが、まあ、私は私であの女と大きく距離を取って接すればいい。
【フォリー・フィリクション・フロック】が安泰であれば、私は別にどこでもやっていけるのだ。
外聞は悪いが、悪くない話だ。皆、喜ぶだろう。
そう思っていたらさらに報酬がアップした。
帝国とクロサガ王国と同盟。戦争回避。
これこそ、あの女が最も欲しかった結末だ。私達が最も欲しかった結末だ。ハッピーエンドだ。
あの女、とうとう達成しやがった。
リープクネヒトの言う通りだ。
現実があの女の望む通りに動く。
これが英雄級の力なのか。
その時、私は初めてあの女を認めた。
春日井真澄を認めた。
絶対不可能を成し遂げた。
奇跡を成立させた。
なのに春日井真澄は全ての提案を却下し、帝国に宣戦布告をした。
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