第573話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑳
まあ、あの女が達人者級の強さという話は伏せるか。
戦ってみなければバレないだろう。
あの女は外目は可憐な少女だ。
適当な理由を見繕って襲わせるか。
どのみち、私の抹殺トラップへのガイドビーコンにすぎない。
私が脱出するだけの時間が稼げれば御の字か。
「後は帝都辺境に住んでるマタラムって爺さんが強いって話だな。齢90をすぎながらも近接戦闘では不敗らしい。それと引きこもりのマラケシュ。圧倒的な遠距離火力で全く近接戦闘に持ち込めないという話だ。まあ、この2人は金銭よりも仕事を依頼することの方が困難だ」
酒飲みは会話の内容よりも喋ることそれ自体に楽しみを見出している。
リープクネヒトも例外でないようで先程までの意見を封印し、積極的に仲間を紹介してくれる。
「まあ、どいつもこいつも私よりは格下だがな」
うん!?
今、聞き捨てならないことを言ったぞ。
やはり、リープクネヒトも、相当強いのか。
普通、あの女の強さを知っていれば、戦いたいとは決して思わないはずなのに。
人として苦手と表現していながらも戦ったら負けるとは決して告げない。
達人者級相手でも勝てるということか。
ひょっとして、彼女を雇えば全てが解決する話なのか。
しかし、この女はこの女で一癖も二癖もあるからな。
だが、こちらの事情を全て知り尽くしている。駆け引きなしで正面からぶつかれる数少ない相手だ。
もっと酔わせて、なし崩し的に私の依頼を了承させるか。
そうと決まればもっと酔わせるのみ。
「へえ~リープクネヒトさんってそこまで強いんですか~どうやって、そこまでの強さを手に入れたんですか」
「そうだな~私の出自に関係があるかな。私はとある大盗賊団の頭目の娘だったんだ。幼いころから、盗賊としての英才教育を受け、日々を過ごした。ある時、父親と衝突し、その大盗賊団を抜けたんだ。以前から、独立志向が強かったからな。父親とのケンカは単なるトリガーにすぎなかったわけだが、そんなわけで私は華の帝都にやってきたわけだ。まあ、仕事でそれまでにも何回か帝都には来ていたがな。しかし、幼い娘が帝都で一人で生きていくのは大変でな。私も冒険者組合をめざしたわけだ」
トークを盛り上げることで、気分を作る。
案の定、リープクネヒトはすらすらと自分の出自をしゃべっていく。
このあたりはトラップの環境整備と同じだ。
こうして、私はその日、一日中、リープクネヒトの太鼓持ちをした。
だが、太鼓持ちに全精力を使ってしまったために、その日は他に何もできなかった。
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