第571話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑱
ケンカ別れしてしまったという下りから、事情に明るくない私にまで分かるどうしようもない後悔が感じられた。
何があったかは分からないが、リープクネヒトはきっと今でも後悔しているのだろう。
その辺りの背景を理解しながら聞くとリープクネヒトの話にはまた、別の趣があった。
「まあ、あまり思いつめないことだ。お前が何をどう考えようと結局は英雄級の手の内だったということはよくあることだ。それが英雄級と一緒にいることのデメリットだ。このデメリットを理解しないまま、嫉む輩が多いから困りものなのだが…実際、英雄級は皆、性格破綻者だ。我慢して一緒にいられること自体がレアスキルだと考えていい」
私が納得のいかない顔をしているとリープクネヒトは笑いながらグラスを取り、話しを続ける。
「そうだな、私からアドバイスしてやれることと言えば…奴らの思いつきにイチイチ、機敏に反応するな。消耗していくだけだぞ。本気で言っているように見えて、適当に言ってるだけの場合が意外とある。あまり、真剣に考えないことだな」
だったら、帝国兵を不殺で処理せよという指示も適当に言っただけなのだろうか。
そうではないだろう。
方針は間違っていると今でも思うが、あの女が適当に言ったとは考えていない。
本気で見当違いな指示を出してくるから皆、困っているのだ。
リープクネヒトの話は面白いがどうにも信憑性に欠ける。
それにリープクネヒトとパーティーを組んでいたという英雄級の人物と春日井真澄(あの女)とに英雄級としての共通点があるかどうかは不明だ。
まして、春日井真澄が英雄級だという保証もないし、リープクネヒトの言う英雄級の特徴だって本物かどうか分からない。
全て酒の席での話なのだ。
「私もこの家業だ。色々な人間を見てきたが絶望が深いと、どんどん幸せからは遠ざかっていくぞ。恨みや憎しみは確かな力を与えてくれる。しかし、同時に自分を灼く呪いにもなる。絶望があまりに深いと心の奥底にダメージを与え、消せない傷を負う羽目になる」
私があの女抹殺の意思を翻さないことを感じ取ってリープクネヒトは忠告めいたことまで述べてくる。
復讐者は自己の復讐を達成した後、張り合いを失くし、一気に老いるというアレと同じ理屈か。
だが私としては復讐とは常に片道切符だと思っている。
退路や身の保身を考える復讐など、復讐とは呼ばないのだ。
「まあ、今この時が最悪だと思っていても後から考えれば最高の時間だったと思うことも人生にはある。あまり、考えこまず人生を楽しく生きたほうがいいぞ」
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