第570話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑰
「それでお前もあの女に魅了された口か?」
唐突にリープクネヒトは爆弾発言をしてくる。
思わず飲んでいたジュースを吹き出してしまった。
魅了どころか、ぶっ殺してやりたいと思っている相手だ。
今日も今から、あの女を殺すための仲間集めに行くところだというのに。
とんでもない侮辱だ。
「ははっ、その様子では図星か。普通は嫌いな相手とはケンカ別れしてそれで終わりだ。殺意を抱くほどの想いは愛と同じだ。そういう意味では間違いなくあの女は英雄級ということか」
そんな簡単なものではない。
あの女は【フォリー・フィリクション・フロック】にシロアリのように寄生して取り除けないから困っているのだ。
しかも寄生された宿主の多くはそれを不快に思っていないから業が深い。
誰も彼もがあの女の上っ面に騙される。
私だけが正気を保っているのだ。
遥か格上の相手に対して複雑な縛りの上で戦わねばならない。
本当に勝てるのか心配にもなってくる。
「なかなか辛いな。英雄級の存在が身近にいるというのは」
グラスを机の上に置き、とろんとした目でリープクネヒトは続ける。
「私も経験があるが、アイツらの発想は突飛すぎてついていけない時が多々ある。だが、事が全て終わってしまえば、それが最善手だったのだと分かる。その時、自分と相手との格の違いをどうしょうもなく思い知らされる…だが、まあ、相手は英雄級だ。比べるだけ馬鹿な話というものだぞ」
確かに発想力は英雄級だと認めるがあの女には実現力が欠けている。
断じて賞賛されるような人物ではない。
心の中できっぱりと反論する。
実際に言葉にして反論すれば、さらに絡まれて逃げられない気がしたからだ。
暖簾に腕押し。話をしても面白くない人物という評価を頂いて、さっさと退散したい。
「まあ、お前もその若さで英雄級に見初められたんだ。これからの人生ただではすまない。せいぜい実力を磨くんだな」
まるで英雄級と同じ時を過ごしたような言い草だ。
英雄級の人物の傍らに立てば、当然、そのお供の名も売れるはずだ。
だが、こんな女の存在、ちっとも知らない。
私だけではない。お頭もあの女も警戒してなかった。
そこそこ腕の立つ用心棒にすぎないと思うのだが、なぜ酒の席でにこんな話題をチョイスするのだろう。
単なる酔った人間のホラ吹き話か…
それにしては実感がこもっているような。
「あなたも英雄級の人物と旅でもしたことがあるんですか?」
頭に浮かび上がった疑問は即座に解消すべきだ。
私はためらいなく、リープクネヒトに質問を入れる。
「ああ、でなければこんな話はできんだろう。まだ、私が酒の味を覚える前の話だ。英雄級の人物とパーティーを組んでた。女3、男1の姦しいパーティーだった。私のパーティーには2人も英雄級がいた。辛かったが楽しかった。魂が充足していた。最後はケンカ別れして解散してしまったがな…」
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