第567話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑭
「ただ殺戮に任して侵攻計画に打撃を与えては色々マズイことに気付いたのよ。一つは【フォリー・フィリクション・フロック】の名誉回復。いずれとは思ってたけど早いにこしたことはないでしょう」
あの女は唐突に私達の組織の名を出した。確かにお頭にはその条件で協力を仰いでいた。
お頭は私達の将来について随分と悩んでいる。
お頭あっての【フォリー・フィリクション・フロック】だからお頭が死ねば組織が瓦解すると思っているのだ。
実際、その通りだろうが私的には何ら問題ない。
所詮は盗賊団、今の在り方の方がイレギュラーすぎるのだ。
「それに、もっと先を見据えると。例えばクロサガ王国が帝国を併呑した場合、ここで帝国の兵士を殺しすぎると統治に支障がでるでしょう」
「クロサガが帝国を併呑するなんて…」
あまりにスケールの大きな話に不覚にもため息がこぼれる。
こういう態度があの女を調子づかせるというのに。
「あなた達の功績は歴史の1ページに刻まれるわ。【フォリー・フィリクション・フロック】は不殺で帝国の侵攻計画に打撃を与えたと。そうして始めてあなた達の名誉は回復する。それだけでなく、あなた達の存在は歴史の表部隊にも登場する」
自身の発言に陶酔しながら、あの女は発言を続ける。
あの女の演説を聞いていると自分の冷めた部分が次第に熱を帯びているのを感じる。
なんという演説力。
なぜだがか、あの女の言うことが全て正しいようにすら思えてくる。
「皇帝のみを狙う。指揮官をピンポイントで狙う。兵站のみを狙う。やりようはいくらでもあるわ。ただ、不用意に大軍を相手にする。やってみて分かったけど、これは下策よ。別の策を考えましょう」
やはり、この女は英雄級の誇大妄想家だ。
グランドデザインを描く力は凄まじい。
実際、さっきまであった嫌悪感がみるみる霧散している。
一瞬でも、この構想が実現できれば本当に凄いのではないか。
そう夢想した自分がいた。
発想力は凄い。それは認めよう。
但し、それを実現する力が決定的に不足している。
所詮、この女の述べるプランは全て実現力に欠けている。
例えば皇帝を狙うといっても、実際にはどう実現するつもりだ。
相手は警備の最もキツい皇宮の奥にふんぞり返っているのだ。
用があれば、呼びつけるだけで事足りる。
そこら辺をスタスタ歩いている市井の人間とはわけが違うのだ。
だが、好き放題あの女を評価しているが私も同じだ。
あの女を止める術をまるで持たない。
実力はこの女の方が遥かに格上。
このままでは私の【フォリー・フィリクション・フロック】がこの女に使い潰されてしまう。
甘い夢に踊らされて、自分達がどんどん摩耗していることにすら誰に理解していない。
お頭まで、この女の発想力に魅了されている。
噂に聞く【テンプテーション】のスキルでも持っているのか!?
現実を見ているのは私だけだ。
誰も頼ることなんかできない。
私がなんとかするしかない。
そのためにもココは協力的な顔を、いかにも納得しましたという顔をするしかない。
その間になんとかこの女を亡き者にする手段を考えねば。
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