第562話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑨
アジトに戻ればもう、すっかり夜だった。アジトの前ではコ・エンブが待っていた。
相変わらず心配そうな顔をしている。
おにぎりの礼としてほっぺに軽くキスしてやると目を回していた。
可愛い奴め。
その日は部屋に戻ると誰も話かけてこず、おかげで泥のように眠れた。
翌日、まだ眠っている最中に全員集合の号令が下り、中庭に集められた。
こんなこと初めてだ。熟睡を妨げられたので眠い。頭が回らない。
眠気眼で立っているとお頭が現れた。
内容は予想通り、お頭の上にあの女をつけるという話だった。
しかし、これまで通りお頭が上に立つという状態に変わりはないようだ。
正直、ホッとした。
これなら、あまり変化なんてものは無いのかもしれない。
ちょっと変わった依頼が入ってくるだけだ。
あの女様は仕事を持ってくるクライアントだ。
アイツが仕事を依頼し、私達がそれをこなす。その見返りに安定報酬を頂く。
それなら問題はない。おまけに接点もない。
そう思えば、昨日の態度は確かに大人気なかった。
後で形だけは謝っておこう。
そう反省していたが考えが甘かった。
部屋で二度寝していると突然、私だけ呼びつけられた。
ちくしょう。昨日の件か。あれで終わりにはできないのか。
陰険な野郎だな。
まあいい。場合によっては今日ココで辞めてやる。
既に覚悟はできてるのだ。
冒険者についての情報収集がまだ、できてないがしばらくは住み込みの働き口でも見つければなんとかなるだろう。
そう覚悟していたら、全く予期していない矢が飛んできた。
帝国に戦争を挑む!?
あれは冗談じゃなかったのか!
一緒にパーティーを組んで帝国の中枢に乗り込む!?
コイツ正気なのか???
目的も誇大妄想なら、方法もあまりに粗雑だ。
ちんけな盗賊団が1セット揃ったところで帝国は小揺らぎもしない。
そして、なぜわざわざ、自分を殺しにきた相手を選ぶのか。
どうして私なのだと尋ねれば、私の【トラップ】能力を評価してとサラッと言いやがった。
やはり、あの時の殺気を感づかれていたのか。
だが、自分を殺しにきた相手をどうしてそうも簡単に信じられる。
もう一度、殺されるとは思わないのだろうか。一緒に行動するということは寝込みを襲うことも簡単なんだぞ。
お頭も当然、その点を指摘してきた。
当然だ。選抜された今でも私はこの女が大っ嫌いだ。
しかし、この女は自分の問題ではなく、私の問題だと捉えたようだ。
穏やかな声で私を説得してきやがった。
上等だ。
だったら、やってやる。
その在り方が本物か、間近で見て評価してやる。
既にこの女の評価は覆っている。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたがどうやら大馬鹿の類だ。
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