第561話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑧
お頭の部屋から逃げ出した私はあてもなくさまよう。
途中、コ・エンブが心配そうな顔をして声をかけてきた。しかし、今は相手にするのも煩わしい。
適当に返事をすると何かを手に押し付けてきた。確認することなく、ポケットに入れる。
今は誰かの声を聞くことすら不快だ。
完全に無視して、振りきる。
自分の部屋に戻ることもできず、一人、山を登った。
私の部屋は4人部屋で騒がしい。時折、一人きりになりたくて、よく来るのだ。
頂上まで登り、完全に一人きりになったのを確認すると声を出して泣いた。
誰もいないから遠慮はいらない。声を出してさめざめと泣いた。
人生でここまで豪快に泣いたことは一度もにない。
これよりも辛いことは数限りなくあったが、こんなに悲しいのは思ったのは初めてだ。
どうやら、私も一端の人間になったらしい。
ひとしきり泣くと涙も枯れ、自然と今後のことを考える。
相変わらず自分の冷静な頭脳が恨めしい。
まず、【フォリー・フィリクション・フロック】の変革。
これは止められないだろう。
お頭は本気だ。
徒党を組んであの女を追い出したいところだが皆、お頭に対しては順従だ。
お頭がそう決めたのなら、皆、その指示に従う。
従って、もう【フォリー・フィリクション・フロック】の変革は諦めるしかない。
万物は流転する。
いつまでも古い価値にとらわれていては始まらない。
あの女を殺せでもすれば別だが、お頭以上の強さを持っているとなるとなかなか難しい。
私は本気を出せばお頭をも殺せるとは考えているが、それはお頭のスペックを完璧に把握しているからだ。
遠くから嵌めて殺すが私の持つ唯一の引き出しだが、相手のスペックが分からなければ失敗する可能性が高い。
まだ、切り札や奥の手を持っているならあの女を殺すのは不可能だ。
相性が悪すぎる。
スペックを丸裸にできる【スキル】でも持っているなら別だが。
こんなことなら、もっと必死にそちら方面の研究も進めておくんだった。
となると残るは私がココを出るか、出ないかの話になる。
私がココを出る。
昨日まで考えたこともなかった。
まだ、若いから雇ってはくれるだろうが。仕事ができるかも不安だ。私には【トラップ】のスキルしかないのだから。
しかし、イメージしてみるが現実感がわかない。
商店やどこかの受付で働く?
多分、勤めきれず辞めてしまう。客にトラップをしかけてしまいそうだ。私に接客など無理。
ならば、冒険者として働く?
素人のソロは危険だというのがもっぱらの噂だ。
いい仲間が見つかればいいが私にピッタリだが、素人相手の嵌め手も多いと聞く。
私は戦闘レベルが本当に低い。嵌められた場合、高確率で死ぬ。
やはり、【フォリー・フィリクション・フロック】から出ることなど考えられない。
お頭は私にとって特別だが、他の仲間、例えばコ・エンブなど家族のように思っている。
孤児院にいた時とは随分、心境が変わっている。
そういえば、コ・エンブがなにかを握らせていたな。
ポケットを確認すると潰れたおにぎりが入っていた。
コ・エンブの奴。
一瞬、柔らかな笑みがこぼれる。
とりあえず、当面は【フォリー・フィリクション・フロック】にいよう。
その間、冒険者として生きる道も探そう。
情報を集め、次に我慢ができない時は飛び出そう。
嫌になったら、その時、出ていくことも考えて行動しよう。
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