第559話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あんな奴、あの女で十分だ⑥
違う。
私が聞きたかったのはそんな言葉じゃない。
なぜ、私が出て行かないといけない。
出て行くのはこの女の方じゃないか。
客人に無礼を働いた。だから、叱られる。それなら、まだ納得はできる。
しかし、出て行けとは…
仕事でなら何度も叱られたことはある。
だが、ここまできつく叱られたことは一度もない。
この盗賊団にいる者は皆、社会の掃き溜めにいた者ばかりだ。
私も王都にある貧民街の孤児院出身だ。
物心ついた頃には屋根に穴の開いた家で子守をしていた。
血の繋がりもない子供の世話をバカみたいに一生懸命していた。
院長は国からの補助金を適度にピンハネして経営をしていた。
よって暮らしは貧しかった。
死なないように適度に飢えさせ、高度な愚民化教育を施された。
飯を食わせてくれる院長を神として崇め、ある程度、大きくなれば日雇いに出る。
賃金は全て院長に渡していた。
それが当たり前だと思っていた。
あのまま、あそこにいては娼婦か女衒ぐらいの出目しかなかっただろう。
きっかけはなんだったか。
あまりに腹が減ったので、仕事帰りに自分の稼ぎで飯を食った。
そのまま、帰っては賃金を盗んだのがバレ、殴り殺される。
怖くなった私は空き家で一夜を過ごした。
翌日、目が覚めると誰からも叱られることなく生きていた。
疑問に思いながらも仕事に出るとまた、賃金をもらえた。
昨日の分の賃金もまだ残っている。なのに今日の分ももらえた。明日も働けばもらえる。
私のマインドコントロールがようやく解けた瞬間だ。
しかし、この辺りで働いていてはいつ連れ戻されるか分からない。
別の働き口を見つける必要がある。
幸い、私がやってた雑用は王都中どこでも需要があった。
翌日、首尾よく別の働き口を見つけた私は空き家と職場の往復生活を始めた。
新しい職場では賃金が前よりもさらに安くなった。
だが仕事そのものは上手くいった。
こうなると残りの不安はいつ院長に見つかるかだ。
院長はこの辺りの顔役だったので空き家に長く居れば確実に見つかる。
折角、作った理想郷をこのままでは院長に潰される。
どうすればいいのか。
頭の悪い私には何の解決策も思い浮かべなかった。
そんな時、院長が殺されたという報せを聞いた。
殺ったのは【フォリー・フィリクション・フロック】という盗賊団だ。
義賊。王都の裏の顔役。
率いているのは嘗ての黒佐賀王最強の弟子。
院長を殺し、子供達を解放した後は生活のための道筋までつけてくれたという。
そして、団長自ら、私の存在を案じ、探し出してくれたのだ。
後で聞いてみると帳簿上は存在するのに、蒸発しているので気になったとのことだ。
その時にはもう恋に落ちていたのかもしれない。
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