第553話 決戦前夜⑮
「この山は来るべき帝国の侵攻に備えて魔改造してあります。行って下さい、真澄様」
提案はありがたいが相手は達人級だ。ヨウメイの防御力では耐えることはおろか躱すことすら困難だ。
【時空間攻撃阻害】の【スキル】でも持っていれば別だが、そもそも【次元斬り】は発現自体が激レアの【スキル】だ。
【カウンタースキル】を持っている者など、祥君並の超高位プレイヤーだけだろう。
「大丈夫です。時間を稼いだ後、私も撤退します。他のメンバーは既にマムルークに入っています。グラッドストン将軍が受け入れてくれました。真澄様もお急ぎ下さい」
尚も、私に退却を指示してくる。
そもそも、【フォリー・フィリクション・フロック】とは手を切ったはずだ。
さっきの攻撃はアフターケアだと考えれば、まだ理解はできるが本来、ココまでしてもらう謂れはない。
「いや、フェビアンはともかく、君達との契約は切れてる。そこまでしてもらう義理はないよ」
本来はフェビアンだって帝都襲撃が終わった後、契約は切れてる。
その後、直弟子会議なんかのゴタゴタでなし崩し的に参加してもらってるはずだが私としては仁義がきれてないという後ろめたさがある。
「さて、私達を英雄にすると宣言されたのは真澄様だったはずかと」
とぼけた顔でヨウメイは言ってくる。
「皆、本音の部分では分かってるですよ、盗賊団で働いても先がないと。老いて動けなくなった時が人生の終焉だと。けれど、真澄様は私達に希望を示してくれました。英雄になる夢を。誇大妄想かと思っていましたが、直弟子会議まで実現させ、あなたに追いていく者も増えた。あなたを真の英雄だと考える者も増えています」
ヨウメイの表情には嘗てあった侮りがまるでない。フェビアンに接するような尊敬の意思を持って私に語りかけている。
「実際、私達が帝国から帰ってきたら仲間の反応が凄かったんですよ。実質は任務失敗なのに、根掘り葉掘り聞かれ、誰もが次を期待していました。私は罪悪感や後悔で一杯で顛末を話すことにすら時間がかかりました。皆が真実を知り、意気消沈する中、今回、真澄様に無料で加勢するという話も先日、決まりました。1人が提案すれば、後は早かったですよ。最後は全開一致で真澄様の支援が決定しました」
ヨウメイや4人衆だけの個別的な意思ではなく【フォリー・フィリクション・フロック】全員の同意が取れているのか。
「相手に何かをしてほしいなら、まずは自分から相手に何かしろ。常々、お頭にはそう教えてもらっています。ギャラなんて入りません。あなたの役に立たせて下さい。真澄様」
力強い声でヨウメイは最後の説得をする。
「それに真澄様は私が敗北することを前提にしゃべっておいでですが、私が勝つパターンをお忘れです。この山での戦闘という限定条件があれば、私が負ける確率は激減します。やらせて下さい、真澄様」
そう言いきったヨウメイに憂いはまるでなかった。本気で三栗原に勝つつもりなのだ。
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