第549話 決戦前夜⑪
「フェビアンは下がってて」
私を庇い、前に出ようとするフェビアンを静止する。
「だが、しかし、お前が倒れれば全てが終わるんだぞ」
「なら、応援を連れてきて。早く! どのみち、その【白気】の量じゃ、盾代わりにもならないでしょう。正直、邪魔よ。行きなさい」
急所をついて、黙らせる。同時に目先の指示も与えてやる。
フェビアンは頭がいい。反論できず、それが最善だと分かると挨拶もせず、撤退していった。
きっと、その表情は苦痛に満ちていただろう。
今は個人の感情など無視だ。
【次元斬り】を相手にしては防御がまるでできない。
身体能力を強化して避けまくるしか方法を思いつかない。
幸い私には【聖竜皇の竜眼】があるから、ある程度の未来予知はできる。
しかし、フェビアンにはそれはなく、長期戦になれば【白気】が枯渇してしまう。
この選択がベストなのだ。
彼の場合、回復させれば、まだまだ戦える。
ここで死んでもらうわけにはいかない。
「妙な仲間ね? NPXC?」
三栗原は気安げな様子で話しかけてくる。
フェビアンの脱出のためにも、ここはトークで引き延ばす。
「いいえ、けど明確な自己の意思を持っている。大事な仲間よ」
「NPXCは発現も育成も難しいのよ。彼は覚醒寸前までいってるわ。大切になさい」
なぜか私に有利となるアドバイスまで送ってくる。どういう心象なのだ?
「随分、べらべらしゃべってくれるじゃない。余裕なの?」
不思議に思った私は思わず尋ねてしまう。
「いえ、嬉しくて昂ってるのよ。前回は無様な敗北を期したでしょう。自分の不甲斐なさが恥ずかしくて…ようやく雪辱を果たせるかと思うと嬉しくて、嬉しくて」
そういうと前回、教室で戦った時とは全く別の刀を構えてくる。
かなり大型の刀だ。2メートルはありそうだ。
「あなたがそれほど、強いなら私もあの場で本気を出したのに」
いや、常在戦場じゃなきゃ駄目でしょう。事故で死んでも経験値とお金が飛ぶんだよ。
「私の愛刀、朦朧次元刀は最強の攻撃力を持つけれど、耐久度が低いのだけが難点なのよ。上手く扱わなければ、すぐに折れてしまう。だから、ここぞという場面でしか使えないの。とても遊びで使っていい品じゃないの」
三栗原は刀を指でなで、陶酔したような表情をみせる。愛刀と戦えることに酔っているようだ。
「微温い覚悟で戦闘なんかするから、ワンパンで負けるのよ。その驕りがあなたをもう一度、敗北に導くのよ」
あえて煽り、相手の感情を乱す。
それが戦闘開始の合図だった。
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。
ブックマーク、感想、評価、メッセージ等あれば何でもお待ちしております。
皆様のポチッとが私の創作の『唐揚げを食べようとオーブンで温める。温まったので皿に移す。その瞬間、取り損なって一つ落とす…ホコリまみれで再起不能。五個入りを一個落としたショックは半端なかった…』(意味不明)ですので何卒よろしくお願いします。