第54話 ワガママで可愛くて自分の命より他人の命を大事にするNPCです
7本の首の内、3本を落とされようやく焦ったのだろうかソードパープルヒュドラは突如、動きを停止させ口に咥えていた剣を私に向かって投げつけてきた。
全く予想外の攻撃に回避はするが間に合わない。左腕が大きく削られる。すると目の前が真っ赤になり、身体が一切動かなくなる。毒だ! 見ればHPゲージもみるみる減っていく。私は慌てて毒消しを使おうとするが指一本動かせない。まるで情報体に動けという信号が届いていないような状態だ。インフィニットステーションの安全装置のおかげで痛覚の再現は行われていなかったものの、自分が死にどんどん近づいていく感覚は如実にある。
内部通信(気)で助けを呼ぼうと思った瞬間、天都笠さんが毒消しを使ってくれる。ようやく、HP減少が消え、なにより情報体が自由に動くのを感じてほっと、一安心する。やはり、油断してはダメだということか。
私が気持ちを入れ直しているとソードパープルヒュドラが目前まで迫っていた。回復と攻撃は同時にはできない。天都笠さんが私に毒消しを使ってくれてるほんのわずかな時間にもうここまで接近したということか!
ソードパープルヒュドラの剣を投げつけた首から大量の炎が吐き出される。これが炎のブレスというものか! 私が死を覚悟した瞬間、天都笠さんが自分の身を盾にその炎の直撃を受ける。確かにこの炎の直撃を受ければ私は死ぬがそれは覚悟の上だ。天都笠さん、お節介すぎるよ! しかし、今、私がすべきなのは天都笠さんが命がけで私を守ってくれているのだ。この隙に離脱し、HPの回復を図る。そして、可能ならもう一度、距離を開け、ソードパープルヒュドラの射程距離外から戦うという先ほどの型を取るべきだ。私が回復を終え、天都笠さんの方を見ると今度は天都笠さんが防御もせず、4本の頭からの攻撃にやられ放題になっている。1本の頭からは炎を受け焼かれ、それ以外の3本の頭からは剣でめったざしになっている。
私が喰らった、あの剣の毒か!? 天都笠さんほどの高位プレイヤーでもあの剣の毒を受けると行動不能になるのか。これが天都笠さんが撤退を選んだ理由か、行動不能と毒のダブル状態異常、さらに地力も強い。私も状態異常覚悟で突っ込むべきか? それとも別の策を講じるべきか? 戦闘中だというのに長考してしまい、二の足を踏んでいると背後から聞き馴染んだ裂帛の声が聞こえる。
「はぁぁぁぁぁ、エクシード流剣王技、乱れ撃聖剣」
エミリーが突っ込んできた。馬鹿、これじゃあ作戦が崩壊する。いや、作戦なんかどうでもいい。あの毒を受けたらあなたは!!!
「やあぁぁぁぁ、眞意一刀・白」
気がついたら、私はエミリーと同じようにソードパープルヒュドラの懐にいた。こうなったら、毒を受ける前にソードパープルヒュドラを倒すしかない。
読んで頂きありがとうございました。明日も投稿できそうなら14時の予約投稿で行こうと思います。よろしくお願いします。