第538話 デカイ図体でも几帳面なサンケイ⑧
「上層部が決めたから。政軍分離の原則があるから。なにより、自分達は無力だから。動かない理由は様々だろう。動かないことを責めている訳ではない。皆、それぞれに生活があるのだ。同時にサンケイの一門の長としての判断も蔑ろにすることはしない。彼も最大公約数を汲みとったにすぎない。しかし、ココは自分達の国なのだ。直弟子に任せるのではなく、そろそろ自分で動いてみることも考えてみるべきじゃないか」
静かにハッキリと徐々に声のボルテージを上げながら伝える。
「今、この料理大会は変わった。来年、開催できるならもっと素晴らしいものになるだろう。この料理大会と同じようにクロサガ王国も変わるべきではないか?」
いつの間にか、観客は皆、咳きひとつなく、私の演説に聞き入っている。
「間もなく、私は出征する。無能領主の評価を持つ私では兵は集められないだろう。だが、私は1人でも行く」
私の宣言に皆が動揺する。帝国数万の兵を前にそれはあまりに無謀な賭けだからだ。
「誰かに任せるのではなく、自分の力で国を守りたい。その想いが私の根底にあるからだ」
そこで、大きく息を吸い、呼吸を整える。
そうして、料理対決を始める前から用意していた台詞を吐く。
「故に私はここにいる同志に向かって檄を飛ばそう。流転する運命に流されて生きることが嫌なら私の元に集え。私がその命を有効利用させてやろう」
私のその一言で観客の目に火が入る。想いが届いた結果だ。故にさらに続ける。
「戦闘だけが戦いじゃない。志があるなら、どんな力も歓迎する。故に志があるなら、大要塞マムルークに集え」
私がそう叫ぶと観客は歓呼の声で迎えてくれた。
それはまさに会場が一つになった瞬間だった。
◇◆◇
「やってくれたね。ここは由緒正しき料理大会の場所なのに、政治の場にまで堕落させてくれちゃった」
私が演説を終え、ステージ上からハケようとするとサンケイが待っていた。
「その割に邪魔をしなかったじゃないか。本音ではサンケイも戦いたいんじゃないの? 」
「…」
「仲間集めはコレで終わりだ。成功はしなかったが打てる手は全て打ったつもりだ。後は決戦の日を迎えるのみだ」
「本当に1人で戦うつもりなのかい? 直弟子の援護もなしに」
「当然だ。言い出した者が命をかけないで、誰がその言葉の正しさを証明する」
「まあ、サンケイの参加も待ってるよ。ところで気付いたかな、さっきのスイートポテトの仕掛け?」
このまま、帰るのも味気ない。わずかな茶目っ気を出す。
「サンケイに出した品はガリポリ産だったんだよ。もちろん、代替品なんてどこにでもある。けれど、今日、君を感動させたサツマイモは戦争が起きれば手に入らないよ」
サンケイは随分、複雑な顔をしている。迷うぐらい私が出したスイートポテトは個性的な味だったのだろう。
「君が戦う理由はそれで十分でしょう」
それだけ告げると私はステージを後にした。
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