第537話 デカイ図体でも几帳面なサンケイ⑦
「だけど、この素晴らしい料理対決も今回が最後だ」
サンケイの講評の隙間を縫って、私は観客席に向かって語りかける。
「皆も知ってのとおり帝国の侵攻が近づいているからだ」
サンケイは邪魔をしてこない。
というよりもできないだろう。
私はこの大会でこれほど頭角を現したのだから。
もう、最初の時のように無碍に扱うこともできなくなった。
「帝国がいつ攻めてくるか? 皆にそれを教えることはできない。だが、1年以内に攻めてくることは確実だ」
噂レベルでは帝国侵攻の情報も入っていたのだろう。しかし、実際に期限を切って説明すると真実味が増してくる。
料理談義が花開いていた先程とはうってかわり、観客も真剣な様子で私の言葉に聞き入っている。
唯一、メッテルニヒだけはニヤニヤとした表情で見ていたが。
「クロサガ王国上層部は和平の道を模索している。しかし、和平と言えば聞こえはいいが実際はダーダネルス・ガリポリ領を売り渡そうとしているだけだ」
最高機密を民衆の前であっさりと開陳する。まあ、どうせ侵攻の日まで日がない。
たとえ、実行されてもされなくとも遠からず国民の耳には入る情報だ。
「そんな現状に憂慮を示したある人物が先日、直弟子会議を開いた。皆も知っているとおり、黒佐賀直弟子はクロサガ王国最強戦力だ。彼らを投入すれば勝てない戦は存在しない。だが、会議は決裂した。黒佐賀直弟子はこの国の最強戦力。上層部の指示なく動くべきでないというのが最大の理由だった。なにがあっても政軍分離の原則は守る。ここにいるサンケイも動かずに賛成した1人だ」
観客にまたしても動揺が走る。
コ・ガイシ達も互いを見合って周囲の反応を盗み見ている。
信じるべき指導者が不可解な選択を行った。
それでも指導者の選択を信じるべきか、選択を間違ったと断じるべきか。
少なくともダーダネルス・ガリポリを見捨てることには皆、抵抗があるだろう。
「最強の戦力が存在するのに、国の危機に動こうとしない。オカシイではないか! ちょうど、今の料理対決と同じだ。誰も観客に試食を委ねようとしなかった。最高の敵に自分の最高の品を振る舞おうとしない。相手の品を食べさえすれば、勝ち負けがより納得のいくものに変わるというのにだ」
遠い政治の話を具体的な生活のレベルにまで落としこむ。
「前例踏襲に固まりすぎ、審査員に審査してもらうのが当たり前。そこに誰も疑問を抱かなかったから、私のような素人がコ・ガイシに一矢報いることができた」
実際、全く同じ条件で戦えば私の完全敗北だっただろう。
「考え続け、行動したから私は栄光ある敗北という審査がもらえた。なら、それは国家の選択にも同じことが言えるのではないだろうか?」
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。
ブックマーク、感想、評価、メッセージ等あれば何でもお待ちしております。
皆様のポチッとが私の創作の『う~ん、なぜか今日も満腹御飯だった。美味しくてありがたいが分散して、平均レベルを上げたい。それと食べ過ぎるとしばらく眠気で動けなくなるんだよな…』(意味不明)ですので何卒よろしくお願いします。