第529話 クーリッジに教えてあ・げ・る③
「なんだか難しすぎて、よく分かんないんですけど…」
口ごもるようにクーリッジは答えた。
分からないことを恥じているのか、この問答も評価に入っていると考えたのか。
少し脅しすぎたかもしれない。
「安心しろ。私もよく分かってない。さしあたってはサンケイの居場所だ」
気まずくなった空気を払拭するように話題転換を図る。
クーリッジに僅かでも意識の変革が見られたなら、一歩前進だ。
いきなり大きく変わることを期待しているわけではない。
徐々に変わってくれれば御の字だ。
「サンケイさんは、まだ、王都にいるんじゃないかな。いるとしたらゼンチュウ通りかな? あの人食べること好きだし」
ゼンチュウ通りか。行ったことないな…
クーリッジに連れていってもらうか。
「よし、クーリッジ。先導しろ。競争だ。思い切り走って構わんぞ。私らはこう見えて足が速い」
「えっ!? 本当!? なら、行きますよ」
まだ固い。それでも、自分の得意分野だからだろう。
キレイなフォームで生き生きと走っていった。
「メッテルニヒもまさか、遅れないよな」
無言で私とクーリッジのやり取りを聞いていた彼女にも声をかける。
「もちろんっすよ~誰にものを言ってるんすか~私はこの3人の中で一番速いっすよ~」
そう言うと、私を置いてクーリッジの後を追う。
私も負けていられない。
というか、現状、一番遅いのは私かもしれない。
2人を追いかけて私も宙を舞った。
◇◆◇
着いた先は屋台街だった。
そこかしこに屋台がならんでおり、人の数も多い。
クロサガ王国に入ってこれほどの人を見たのは初めてだ。
辺り一帯が異様な熱気に包まれ、様々な臭いが混ざり合っていた。
「本当に僕について来られたんですね…こんなの初めてだよ~」
屋台街の先で止まったクーリッジは嬉しそうに感想を述べる。
早くも敬語が解けかかっているがやはり、この方が彼らしい。
着順は1位:クーリッジ、2位:メッテルニヒ、どべ:私だ。
全員が本気を出していないとはいえ、言い出しっぺが最下位とは情けない。
私も結構、本気ではあったのだが着地した建物が次々と損傷していき、これは不味いと途中から力をセーブしてしまった。
ゼンチュウ通りまでのメインの道は人がごった返しており、地に足をつけての全力疾走はできなかったのだ。
必然、全員が建物を伝っての変則的な高速移動となったわけだ。
戦闘以外の【黄金気】の出力調整はまだまだ下手で改善の余地がある。
これなら、出力は落ちるが【白気】で強化したほうがよかったかもしれない。
その点、クーリッジは見事だ。周辺環境に被害は一切なく、まだまだ余裕すら見える。
【気】の運用のエキスパートというのは伊達ではない。
原理不明なのはメッテルニヒだ。
【気】で強化した訳でもないのに汗一つかかず追いてきた。
ステータスが桁違いなのか、何か【加護】でも持っているのか…
そういえば、私の【神亀の加護】はちゃんと外すことができた。
今は【下学上達の加護】をつけている。
【神亀の加護】をつけたまま競争なんかしたら、かなりの数の建物が倒壊しただろうな…
そういう意味ではあの加護は禁断の加護である。
戦闘以外では絶対使えない。
乙女の最終兵器である。
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