第522話 ドレフュスという女の難解さ①
「交渉と言っても今更、話すことなんかないぞ」
とりあえず、部屋には入れてくれたがにべもない。
ドレフュスは最初からハッキリと拒絶してくる。
「まあまあ、僕の顔を立てて、もう少し話を聞いてあげなよ」
「お前は黙ってろ」
クーリッジが取りなしをしてくれるがコイツの意見は重用されないらしい。
部屋に入れてくれたまでで役割は果たしてくれた。
後は私の仕事だ。
「別に春日井に遺恨があってというわけでない。ただ、単純に私の派閥は非戦派が多いんだ。王城で働いてるやつらが多いから感化されたのかもしれないな」
ドレフュスは拒絶こそしたものの、物腰はひどく柔らかい。部外者の私にも分かるように丁寧に説明してくれる。
「私は一応、そいつらのトップを張っているからな。皆が決めた結論には従わないといけない。反対するのはそうしたわけだ」
なるほど。キッチリと民主主義制を取っているわけだ。
この国は【気】の扱いの巧緻で綺麗に序列化されているのに民主主義を採用しているのは珍しいな。
いや逆か? 【気】の扱いが拙いもの達が集まってドレフュスの派閥ができたのか。
だったら直弟子の中で最大派閥なのも、民主主義採用の理由も理解ができる。
そして、民主主義を採用しているのなら風は私に吹いてる。
「けれど、ダーダネルス・ガリポリ領を失うわけですよ。どれだけの被害が出ると思ってるですか!」
私直弟子会議での議論の焼き直しを行う。
17しかない領地のその2つを失うのだ。それはかなりまとまった数のはずだ。
「避難民の誘導には無論、協力する」
ドレフュスは動じることなく答える。
「総合的な意見としては徹底交戦するより、戦って失うもののほうが大きいと出た。しかも、戦う場合は講和の道筋も見えない。永久に戦争する気か? だったら期限が見えてる講和の方がより多くの人を守れる」
やはり、こういう計算を悪びれもせず言えるドレフュスは人の上に立つ人材だ。
彼女の計算の先には今度の戦争で発生する死傷者の数と戦争回避した場合、10年スパンで発生する死傷者の数の総合計が明確にカウントされているのだろう。
「この国は血の気が多いやつらばかりだからな。戦争して、講和を取りつけて、その先の展望まで開けているやつがどれほどいるか疑問だぞ。私達の派閥はまだ頭が冷えてる。そういうことまで考えてるやつが少なからずいる」
確かに開戦し、その結果がどうあれ、その先の展望を描けている人間は私の陣営にはいない。
故にドレフュスの言葉に反論できず、黙って聞く事態となる。
「諦めろ春日井。私の派閥はトップダウン型ではなく、ボトムアップ型なんだ。私はただの利益調整役だ。名ばかりのトップだ。まさか、今のように私の派閥の人間をひとりひとり説得に回るわけにもいかんだろう。ひとり1日だとしてもとても時間が足りん。それに誰かが明確に反対しているというわけでもない。総意としての反対だ。そういった意味では実体のない鵺みたいなものだ。いくらお前でも開戦までに説得は不可能だ」
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