第512話 当てはなくとも、とりあえず当たってみましょう⑤
「ドレフュスはホテル・ソウコクハンにいる。だが、会うのは困難だぞ。直弟子会議には出席していなかったがドレフュスをも超える最強の弟子達が護衛に付いている。その実力は俺達をも超えるという話だ。約束も無しに会ってもらえる相手ではない」
私に議論で負けた腹いせか、脅すとも案じるとも取れる発言をする。
「そっか。それは楽しみだ。そいつらを倒すついでに主戦派に組入れてくるよ」
軽く聞き流し、踵を返す。もうココに用はない。
「じゃあ、邪魔したね」
背中越しに、挨拶だけ行う。ティルジットが後ろから襲ってくる様子はない。
向こうも本音はさっさと帰れといったところだろう。
「春日井。俺はお前が嫌いだ」
しかし、そんな私の予想とは裏腹に想定外の告白を受けた。
思わず足を止める。そのままティルジットの言葉だけを聞く。
「イヴァンはお前に心酔し、追いていった。だが、結果はどうだ? あいつはあのまま、王城でいたら出世コースだったんだぞ。遙々たる未来とまでは言わなくてもそこそこの役職に付けていたはずだ」
今度は私が黙って聞く番だった。思いのほか告白の内容はキツい。
心にずしりと痛みが走る。
「あいつは俺の弟子の中では最強では無かった。しかし最も努力した人間の1人だ。最も努力した人間が今やチンケな領主館の門番にまで成り下がった。それも命まで危ない状態だ。領主館での仕事など辞してこの練気場で働けと言っても聞きやしない。」
「私にイヴァン君を付けてくれるよう手配したのは内大臣のマカートニーだよ。彼は辞令に従って着任しただけ。まあ、色々あって私が欲しいとは言ったんだけどね。彼の努力は認めるけど、それだけで渡っていけるほど人生も社会も甘くはない。逆境に陥ったからってそれで終わるなら彼にはそこまでの実力しか無かったってことだよ」
わざと突き放すようなモノ言いをしたせいで背後に猛烈な怒気を感じる。
ここまで罵倒した相手といまさらすぐに仲良くなんかできるわけがない。
だから私はそんな気配はガン無視して話を続ける。
「けれど、私が守りたい相手にイヴァン君はリストの一番上ぐらいに入ってる。クソ領主として帝国の侵攻なんて放っておこうかとも思ったけど、そうできなかったのはイヴァン君のおかげだ」
ムカつく相手だが他でもないイヴァン君の師匠だ。無下にはできない。
私は思いのたけを静かに告げる。
「今日ココに来たのも、フェビアンを連れてこれたのも、直弟子会議を開催できたのもイヴァンのおかげだととも言える。あんたは自分の弟子を誇るといいよ」
ティルジットがどんな顔をしているかは分からない。
振り返らず、私はそれだけ言い残すと【ブーランジュ練気場】を後にした。
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