第510話 当てはなくとも、とりあえず当たってみましょう③
「まあ、いいか…それでお前ら何しに来たんだ?」
露骨に嫌そうな顔をしてティルジットは尋ねてくる。
「いや、ドレフュスに話があるからどこにいるか教えてもらおうかと思って」
私のその一言に狼狽したようにティルジットは言葉を濁す。
「いや…それは…あの…その…そうだ! 分からないな!!」
視線を合わせず、挙動もおかしい。
明らかに嘘だろう、それ。
演技が下手すぎる。
しかし、知らない振りを使ってくるのか。これは面倒だな。
武力を使って強引に吐かせるのも手段の一つだがティルジットはこれから協力を頼む相手だ。
たとえ、拒否られても関係だけは良くしておきたい。
しらを切る相手に武力以外の方法を使って情報を吐かせる。
これは難問だ。
手持ちの手段だけで果たして切り崩せるものか。
「今の発言は偽証ですよね。普段は自信に満ちたティルジットさんが随分と慌てふためいた様子です。本当は知っているけど、言いたくないからそんな発言をするんじゃないですか」
手段その①
正攻法。すなわち、議論で勝ち、相手を精神的に屈服させ情報を得る。
今回の相手であるティルジットは短気で、勝負にこだわる人間だ。その上、人の上に立つ人間でもある。
当然、正論で勝負しなければいけない場面もあっただろう。
だからこそ、狙い目なのだ。
「いや、そんなことは…本当に知らないんだ。分からないものはどうしようもないだろう」
「だったら調べて下さい」
その一言でティルジットは沈黙する。
実は調べる義務など全くないのだが、生来の生真面目さが仇となる。
分からないなら調べる。そこに筋が通っていれば、そうしないのはおかしいと考えてしまうから人間というのは不思議だ。
しかし、ティルジットは黙りこんで無言を貫いている。迂闊に言葉を出さなくなった。よって手段その②に移行する。
手段その②
叱責。
徹底的に罵倒する。
「なぜ黙ってるんですか。都合が悪くなればダンマリですか? 知ってるから黙ってるんじゃないんですか? 武勇に優れ、蒼のティルジットとまで呼ばれた方が女の叱責に何も言い返せないんですか? それでよく王国最大の【ブーランジュ錬気場】の責任者が勤まりますね。そんな性根で仕事をするなら辞めたらどうですか?」
可能な限り不快感を込めて罵倒する。
本当に嫌そうに言うのがポイントだ。
繰り返すがティルジットに答える義務などない。こんな罵倒を黙って聞く義務もなければ、討論する義務もないのだ。
ただ、黙って追い返えせばいいのだ。
しかし、ココで問題となってくるのは私とティルジットの武力がほぼ互角ということ。後ろには私を護衛するようにメッテルニヒも控えている。
対してティルジットの方は彼が最大戦力なのだろう。
周囲には格落ちの弟子しかいない。
さらに【気】を学ぶ子供達の存在もある。私が彼らに手を出すことは万が一にも無いが、そんな素振りは一切見せず危うい人間に演じる。
ティルジットが対応を誤れば子供達に流れ弾があたる。
そう思わせることがティルジットへの大きな牽制になるのだ。少なくとも思考回数を増やす効果はある。
それが手段その③に繋がるのだ。
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