第507話 直弟子会議⑨
結局、会議場に残ったのは私、フェビアン、ディズレーリ、パフレヴィーだけだ。
パフレヴィーを除いては全員が発起人だ。
事実上、振り出しに戻ったわけだ。
「ああ…春日井が短気を起こしてドレフュスを挑発するから~」
そう言ってディズレーリは頭を抱え、机にうつむく。
「元よりドレフュスの説得は困難だった。彼女は今や直弟子の中でも最大派閥なのだろう? 自分の弟子の恭順もある。彼女の意見だけで動けはしなかったのだろう。存外、彼女は私達に気をきかせてくれているように思えたが」
フェビアンがディズレーリを慰めるようにポンと肩をひと叩きする。
「それが分かってたなら何でお前が交渉をまとめないんだよ~あるいは事前にそれを春日井に教えてといてくれよ~」
事が成った後なのにディズレーリはまだ、泣き言を言っている。男がやさぐれている姿というのはみっともない。それも人を束ねる立場にある人間だと余計だ。
「昔は俺が仕切って、お前が纏めてただろう」
「パフレヴィー爺さんとの腕相撲までは完璧な流れだったからな。水を指すのもどうかと思って何も言えなかった。好戦的で短気なティルジットを最初に口説き、次に慎重派のサンケイ、最後に多数決で原則派のドレフュスを説得すれば、まだ勝算はあったかもしれんが…」
すらすらと調略のための手順が出てくる。これを聞くともう少しフェビアンから情報を引き出しておくべきだったと後悔がよぎる。
私を立てるという方便を使われ、積極的に関与してくれなかったのだ。
きっと他の直弟子への遠慮なんかがあったのだろう。
「昔とは違うさ…今の俺が出しゃばればティルジットが猛反発してくる。実際、アイツも自分の派閥のために一度吐いた言葉を翻したからな…昔のアイツなら考えられなかった。ドレフュスも全体のバランスを取りつつ理想を追い求める姿は変わっていないが理想主義が教条主義に変わっていた。昔の彼女はもう少し融通がきいた気がしたが…」
昔はフェビアンがリーダー役を任されていたのだろう。懐かしむように言葉を重ねていく。
「サンケイも昔はもう少し、政治に積極的だった気がする。政軍分離に関して、ああも無関心を垂れ流すとは思わなかった…俺だけでなく、皆、それぞれに齢を取った。勉強嫌いなお前が官僚になっていたりするしな」
そう言ってフェビアンはニヤリ笑ってディズレーリを見る。
「変わってないのはパフレヴィー爺さんぐらいなものですよ」
「ふぉふぉふぉ。さて、それでどうするね? まとまるとは思っていなかったがやはり、まとまらなかった。しかし、これで諦める気は毛頭ないんじゃろう、春日井殿?」
フェビアン達がしゃべっている間にも私の頭はフル回転していた。
官僚の説得?
直弟子の個別説得?
やるべきことはハッキリした。
大丈夫、まだ、時間はある。
まだ、諦める時間ではない。
顔繋ぎはできたわけだし、直弟子の中では長老格のドレフュスの説得にも成功した。
この会議もやった意味はあった。
そう自分に言い聞かせ、なんとか自分自身を奮い立たせた。
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