第506話 直弟子会議⑧
私の正論せいで時を止めた会議場に再び時の歩みをもたらしたのはやはりドレフュスだった。
「もちろん、許せはしないわ。ただ、私が言ってるのは政軍分離のルールを破ってその後、どうなるかよ。もしかしたら、その結果、ガリポリ・ダーダネルスで焼かれる人々の数より多くなるかもってことよ。そのぐらい私達は大きな力を持ってる。あなたも単体では私達と同等の力を持っている。けれど、ここにいる全員を同時に敵に回すことは無理でしょう。私達はそれぞれがたくさんの弟子を取っているわ。中には私の力を超える者もいる。だったら、それが組織的に運用され、間違った方向で使われたらどれだけの数の人が死ぬか想像できるでしょう? 最大戦力のクロサガ直弟子投入とはそういうこと。私達が話をしているのはそういう次元の話なのよ」
ドレフュスはやんわりとしかし、内容は冷徹に私の発言を切って捨てる。
どうやら、私の当面の敵はドレフュスのようだ。
私にはそれが詭弁だと分かる。確かに一度、例外を作ってしまったルールは綻びやすい。
だとしても、国が滅びてしまえばそのルールを守る民すらいなくなる。
ドレフュスの言ってることは本末転倒だ。
よって、正論の反論ではなく挑発で返す。
「私ならここにいる全員を敵に回してもガリポリ・ダーダネルスの民を守る決断をするわ。もっともフェビアンは私の味方についてくれるし、パフレヴィーも私の味方になってくれるみたいだけどね」
「全くそんな危険な賭けをするのは無知なのか、怖いもの知らずなのか…どうして、あなたのような愛国者に無能領主という評判がつくのかしら…」
匙を投げたような声でドレフュスはしみじみと感想を漏らす。
「私が無能なのは事実よ。実際、なんの成果も残せなかった。それでも、自分の民を守れないのは無能以下のゴミ虫よ。それは御免だわ。だったら無知でも怖いもの知らずでもなんでもなってやるわよ」
「自分で自分の議論を封じては意味はないわね。もう少し頭の回る子だと思ったけど…私は直弟子投入には反対。ドレフュス派は決して官を無視することはしないわ。話は以上ね。帰らせてもらうわ」
そういうと入口に張ってあったパフレヴィーの【気孔鋼壁】をやすやすと突破し、ドレフュスは出て行った。
「直弟子最大戦力の一角が退席してしまったか…春日井殿は実力は確かじゃが口はイマイチじゃの…」
パフレヴィーは冷静に私の過ちを指摘する。
私としては戦闘力よりも口上に特化していると思っていたのだが…
同じぐらいの実力を持つ年上の女性というのは相性が悪いのかもしれない。
「そういうとなら、僕も帰らせてもらうね~政軍分離の原則とか別にどうでもいいけど、意見をまとめて声明だしても意味ないんじゃ、これから議論することにも意味がないからね。けど、春日井とパフレヴィー爺さんの腕相撲が見れたのは収穫だったよ。フェビアンと久しぶりに会えたのも嬉しかったよ」
そう言ってサンケイも席を立ってしまった。
「悪りいが俺も帰るわ…心情的には今すぐ、大要塞マムルークに行ってグラットソンを助けてやりてえけど、俺も一勢力のボスだ。俺の意志だけで勝手はできね~官を見限って勝手をしたら予算も止まるしな…ガリポリ・ダーダネルスを盗られれば、官も目を覚ますだろう。それまでは住人の避難や、ゲリラ工作を地味にやるしかないんじゃねえか? それなら俺は協力するぜ」
そう言ってティルジットまで去っていってしまった。
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