第505話 直弟子会議⑦
「あ~春日井の実力も分かったところで、それでは直弟子会議を再開したいと思う」
ディズレーリが仕切り直し、話を戻した。
パフレヴィーはフェビアンの治療を受け何事も無かったように飄々と席に戻る。
まったく大した爺さんだ。
「議題はもちろん、帝国の我が国への侵攻に関してだ」
皆、席につきこれまで以上に引き締まった顔になる。これから、戦闘とは別の戦いが始まるのだ。
「帝国は準戦争状態に入り、ダーダネルス・ガリポリ領からは増兵要請が来ている。しかし、王城はこれに反応していない。増兵要請を無視している形だ。よって最大戦力である我々が政軍分離の原則を破り参加するかを議題としたい」
「俺は派兵には賛成だ。このままでは最初にダーダネルス・ガリポリ領が落ち、グラッドストンが無駄死にする」
律儀に手を上げ発言したのはティルジットだ。意外なことに彼も主戦派のようだ。
「王城から派兵要請も無いのに私達は動けないわ~理由は政軍分離の原則のせいじゃなくて、私達が政治に関しては素人だからよ」
そう言って反対意見を表明したのは ドレフュスだ。艶ややかな声ですらすらと反対意見を述べる。
「私達が勝手に派兵し、政治を無視すれば、官は自分達の面目を失う。民も私達には快哉を上げるでしょう。そうなると私達の声ばかりが大きくなり、官は萎縮する。結果、私達が政治をやる羽目になる。そんなのは御免よ~繰り返すけど、私達は政治に関しては素人なのよ~」
ドレフュスはただ、盲目的に政軍分離の原則に賛成なのではなく、それが直弟子にとって最も効率な制度だから政軍分離に賛成のようだ。
自分達の立場を守るために政軍分離のシステムを利用している。随分、したたかな女だ。私にとっては好感が持てる。
「今ですら官は私達が黒佐賀王の直弟子ということで格別の待遇を与えてくれているわ。いえ、私達の顔色を窺って行動していると言ってもいい。これ以上、ズブズブの関係になるべきではないわ。独立独歩で職分をわきまえて行動したほうがいい。それぞれの職分の中でどうすれば国のためになるか考えるべきなのよ。その行動の結果がこの国をもっといい国にすると信じているわ。そこらへん、現役の官僚であるディズレーリはどう考えているの?」
「私としてはここで全員の意見を派兵に纏め、官を動かし、きちんとした手順を踏んで派兵したい」
話を振られたディズレーリは淀みなく答える。
「ふぉふぉふぉ、それを自力でやろうとして失敗したからディズレーリはここにおるのではないか? 今更、官が共同声明ぐらいで方針を変えるかな? よしんば共同声明を聞き入れたとしても、ぐずぐずと会議で日延びをさせて、気付いたら開戦の日じゃったという結末に陥らんかね?」
するどいツッコミをするのはパフレヴィーだ。この爺さん、脳筋だと思っていたが意外と情報通だ。官がガリポリとディズレーリを放棄する方針で動いていることも知っているのかもしれない。
「それだと、僕達がここに来た意味は無いね。どんな結論が出て、どんな声明を出してもそれが無視されるんじゃ、こうして会議を開いても意味がない。家で芋を焼いてる方がいいね」
最後にそう呑気な発言をしたのはもちろんサンケイだ。この巨漢が一番政治に無関心な直弟子なのかもしれない。
フェビアンをのぞいて全員の意見は聞き終えた。
さて、ここからが私のターンだ。
「あなたたちの視線には決定的に欠けているものがあるわ。ダーダネルス・ガリポリの人々がどうなるかよ」
私の発言で会議場は静まりかえる。さっきの腕相撲で完全に場を呑んだ。いまなら、どんな意見を言ってもとりあえずは静聴してもらえる。私の独壇場だ。
「戦火に焼かれ、多くの人達が死ぬわ。それをこの国の牙であるあなたたちは許せるの?」
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