第502話 直弟子会議④
突然のパフレヴィーの支援にティルジットは黙りこむ。
年長者だけあって、パフレヴィーが議論の趨勢を握っていた。
彼をいかに味方につけるかがこの会議の行方を左右する。
そう思いパフレヴィーと共同歩調を取ろうと考えたその時、トンデモないことを言い出した。
「じゃが黒佐賀の直弟子というのは己の力を上げることと、【気使い】全体の力を上げることにしか興味は無かったはずじゃ。直弟子はいつから官僚の真似事をするようになった」
おい! コイツもとんだ脳筋野郎なのか!?
「適正も無いのに官の真似事をして、木童役人に顎で使われておる。なんともったいないことか。才能をむざむざ腐らせておる」
パフレヴィーがそう言うとディズレーリは肩身が狭そうに小さくなる。
「これなら出奔して、盗賊団を率いておったフェビアンの方がまだマシじゃ、実戦経験だけはいやというほど積めるからのぉ」
そう告げるとパフレヴィーは大きなため息をつく。
「政軍分離は儂らが政治に干渉せんためにあるものではない。黒佐賀が儂らが面倒な政治に関わらんでもいいようにと思って作ってくれた制度じゃ。儂らの本分は【気】のさらなる深化それだけじゃ」
「あんまりボケたことを言うなよ、爺さん」
私は思ったことをそのまま口に出していた。
その一言で会議場が凍りつく。
しかし、言わねばならない。
もはや、パフレヴィーとは完全に道が分かたれたのだ。
「国があって始めて研究や教育ができるんだ。その逆はありえない」
私は自分の価値観に従って、ごくごく当たり前のことを語り始める。
「食うや食わずの生活の中で研究なんてできるか? そんな状況で【練気場】に生徒は集まるか? 不可能だろう。国が最低限度の環境を整えているから研究も教育もできるんだろうが」
パフレヴィーに歯向かったことで皆の視線が再び私に集まる。
しかし、これまでの軽蔑や距離を置いた視線ではなく、好奇心がこもった視線に変わってきた。
中には賛意を示すものまであった。
「できた当初の概念なんてどうでもいい。ただ、現実に合わなくなってきてるからこうやって会議をしてより良いものを作ろうと努力してるんだろうが。制度疲労って言葉を知ってるか? どんな制度も物質と同じで腐っていくもんなんだよ。テメエの頭の中と同じでな!!」
流れる水は腐らないが淀みの水は腐るという。ひとところにずっと留まり、同じメンバー、同じ環境でずっといると自然と淀んでしまう。ズブズブになってしまうのだ。
元々、パフレヴィーは皆から慕われる一角の人物だったのだろう。
しかし、長くぬるま湯の環境にいたため、その目が曇ってしまっいた。
「ディズレーリは立派だよ。皆のためを思って政軍分離のルールを守って。そのために必死に勉強して官になって。そうして、官としての自分と直弟子としての自分、整合性を持って【気使い】のために貢献している。今、クロサガ王国の中で最も役に立ってる人材だよ」
実際、ディズレーリのような人材は貴重だ。直弟子の立場と官の立場、両方を理解できている。
しかも、それぞれの立場に押し潰されることなく、自分の立場を持って対応している。
「しかるにお前はどうだ、パフレヴィー。会議の出席者を自分の価値観で選別して、見当外れな政権批判をしている。国が滅びようとしている時に自分のグループの利益だけを追求している。クロサガ王国が滅びれば、研究も教育も無いんだぞ!!!」
「ふぉふぉ…流石に曲がりなりにも【領主】を務めただけあって、口だけは達者じゃな。じゃが、儂は口だけの人間なんぞ一切、信用せず生きてきたのじゃ。一つお前さんの力を見せてくれんか?」
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