第5話 人生初のログイン風景です
電脳世界行動安全法第二十三条基づく、R15設定のせいで15歳以下の児童は自宅と公共機関、学校施設の中でしかログインを認められておらず私はセカンドワールドオンラインの中で校門より外にでたことは一度としてなかった。
しかし、初めて外の世界に出てみると匂い、周囲の音、温度など全てが克明に再現されていた。
この身はデジタルのホログラフにすぎないのに注意して聞けば心臓の音まで聞こえた。
外に出ても、これがデジタルで表現された架空の世界とは思えないほど現実感があった。
人の数こそまばらだがこの風景は完全に現実世界のコピーである。
なるほど、このゲームができたことでリアルと架空の境界線が薄まったわけだ。
第7のIT革命か。『もはやリアルの肉体など必要無い』というキャッチコピーはこの完成度を体験することで述べられた言葉か。
これほどのリアリティーがあれば魔法も使えない現実世界に留まる意味など極めて少ないだろう。
入っても戻れなくなる廃人が出てくるわけだ…
「さて、春日井さん。分かってると思うけど、この校門をでれば、モンスターが出てくる。一応、オレも武器はもってるけどまだ弱い、まずは情報管理局に行って初期装備一式をもらおうぜ」
もちろん、異存はなかった
。国家がこの仮想現実システムを全面的にバックアップしている(管理ではなくバックアップである)昨今ではチュートリアルの実施にも余年がない。ご丁寧にホームルームでも最初に情報管理局に行って武器を買うべしとプリントまでもらっていた。
高校から情報管理局まで距離にして5キロぐらいか。第1階層では情報体状態で1度でも行けば転送可能だが(一応、転送アイテムが必要だが)一番最初は歩いていくしかない。
転送でいきなり市役所まで飛ぶことも可能だが、それでは味気なさすぎるだろう。
どうせ雑魚モンスターにやられてもわずかなペナルティーしか取られない。早くフルダイブの感覚になれることも大事だし、なによりもっとフルダイブ環境に馴れたい。
そんなわけで私達は徒歩で移動することにした。
しかし、徒歩といえど既にシステムアシストが働いているようだ。
軽いランニングでも自転車ぐらいの速度がでた。全力疾走だとスクーター程度の速度が出るようだ。
まるでスーパーマンになったような気分だ。
いや、悟○かナ○トか。どちらも古い。今だとな○はVIVIDか。
いやいや、昨今のアニメのローテーションは超高速だ。
うかつな例えは時代遅れに繋がる。
しかも、当たり前の話だが全く疲れない。
当然だ。
本物の私はまだ学校の自習室で寝転がっているだけなのだから。
「っと、さすがに清水谷はうまいな。もしかして別のアバターでももってるんじゃね」
気になって清水谷を観察してみると確かにうまかった。
私のHPがわずかながらも全力疾走すると減ってるのに対して清水谷は同じことをしながらもHP減少がほとんど現れない。
報音寺でも私ほどでもないのにわずかに減ってるのに。
しかし、清水谷は妙に角角した走りをしている。
身体的差異というものが全く無い世界の中で同じ条件、同じ状況下にほうりこまれたのにここまで差がでるとは…
これは神経パルスのせいなのか、あるはインフィニットステーションの通信速度の差なのか?
頭に浮かんだ疑問を口に出そうとした瞬間、報音寺から鋭い声が発せられた。
「みんな、ストップ」
いつものやわらかな口調とはまるで違い危機感を抱かせる声だ。まるで不審者でも発見したような様子だ。それも懐にナイフを持っているタイプの。
「あの、ビッグストップの前、モンスターだ」
気付かれないように声を潜めて教えてくれる。
「というか既に戦闘状態だ」
報音寺の指摘した方向を見ると女子高生2人とおっさんが1人がコンビニの前で鹿のような生き物と戦闘していた。
どうやら、ポニーテールの女子高生がガンナー、短髪の女子高生が魔法使い、おっさんが剣使いのようだ。
「というか、ほんとに普通に制服とかスーツで戦ってるね」
「あの制服のアバターの下に防具を着込んでるだろ。自分で脱ぐか、特殊な攻撃で制服のアバターやスーツのアバターが破れない限り防具なんてみえないよ」
私の感想に報音寺が丁寧に答えてくれる。
「あのモンスターは大角鹿だ。このあたりで出るモンスターの中では比較的強い部類だよ。たぶん、最初はおっさんが独りで戦ってたんだろう。けど、苦戦してたんであの2人が助っ人に入ったって感じかな」
流石は経験者である。瞬時に戦況を分析し解説を入れてくれる。
「よし、あそこまで戦闘が進めば巻き込み戦闘の可能性は低いか。とりあえず落ち着いて話ができるとこまで移動するか、ついてきてくれ」
報音寺はこの場に居てはわずかだが戦闘に巻き込まれる可能性を感じたのだろう。場所の移動を提案してきた。
確かにまだ武器も無ければ心の準備もできていない。
こんなところで巻き添えを喰らえば、蹂躙されるだけだ。
見捨てるようで悪いがここは逃げさせてもらおう。
「とっ、清水谷はよく分かってな、やっぱ別のアドレスでアバター持ってんじゃね?」
ビックストップから離れ、なにも喋らず3分ほど走っただろうか。
もう戦闘に巻き込まれることはないと判断したのか報音寺は軽口を叩く。
アバターは国民1人につき1個が原則。1人が2個も3個も持ってるのは資産家か犯罪者か、特別な理由を持つ者だけだ。
戦闘の緊張を解くための軽口なのだろうがあまり面白いジョークとは思えない。
しかし、そのジョークが出てくるほど清水谷のランニングフォームは綺麗だった。
陸上で記録でも持っているのかもしれない。
「一応、持ってるけどひどく取り回しの悪いキャラクターでな、もう少し使いやすいキャラクターを育てたいと思ってたところなんだ」
ジョークにはジョークで返すことに決めたのか清水谷はつまらない切り返しを行う。
こういう男の子のノリはよく分からない。
そして、試すような口ぶりでこう言った。
「それに、アカメガネのアバターを持つキャラクターからギルドへの参加を勧誘されたんだ。断るほうがもったいないだろう!?」
報音寺は幾分、気まずい顔をしていた。
なにか2人だけで会話が成立している。
一体どういう意味なんだろう。
「それってどういう…」
私が疑問を口にしようとするとすぐに報音寺は強引に話題を変えてきた。
「まあまあ、そんな話は置いといて、もうすぐ情報管理局だから職業を決めとかないと。それでどうする? 就職狙いなら、忍者系とかサムライ系が人気だったような。確かサムライ系は剣士→片手剣→日本刀装備の延長にあったような。忍者は剣士→短剣の延長だったかな」
そうなのだ。忍者は【壁面走行】や【高速移動】等の高速移動系スキルが必死に働いてます、全力を尽くしてますってアピールになり人気なのだ。
他にも忍者系のジョブをマスターしていけばセカンドワールド内施設の中での諜報、集音等ができるスキルが身につきビジネスマンに人気なのだ。
最もそれを防ぐためのアイテムも豊富だし、それを妨害するスキルもまた存在し、それを生業とする職業もまた存在しているのだ。
一方、サムライ系のジョブはまるで違う方向性を持っている。
ゲーム外ゲームスキルとでも言うべきかスキルは戦闘用にしか一切役に立たない。
しかし、一歩、現実に戻ってみれば、サムライを選ぶ男ならリアルの職場でも会社に忠義を尽くす男に違いないと考えられる。
よって面接でアピールできるジョブなのだ。
その効力たるや簿記1級や漢検1級を持っているより、よほど信頼されるのだ。
そして、さらにサムライのジョブを持っていると将軍のジョブを持っている者に好まれる。
当然だ。将軍が配下にサムライの1人も雇ってなければ恥をかく。
そして、なぜか将軍のジョブを持つ者は会社社長が多い。
三大通信ネットワークの一つハードバンクの諸葛勤社長は将軍を持ってるので有名だ。
大阪府知事の手摺本さんは大将軍だったような。
最近、人気があがってるのは【幻術士】か。いい雰囲気を幻術でつくるのでビジネスにもプライベートにも有利という統計が出たようだ。
そういえば、先週、雑誌で特集されてるのを見た。
そしてセカンドワールドオンラインのビギナーの最初の目的が【モンスター払いの御法符】だ。
アイテム自体は店舗で購入可能だ。
しかし、レベル30以上所有可能アイテムなのだ。
これを使うことでセカンドワールドオンライン中でもプラべートな空間を持つことができるのだ。逆にこれがないと商談中でもモンスターが襲ってきたりして仕事にならない。
しかし、逆に言えばレベル30にまで達してさえしまえば特段、これ以上レベルアップの必要はない。廃人(high人)としてゲームで生計を立てたりする特殊な人種を除いては…
読んで頂きありがとうございました。
うーん、書くことってむずかしいな…
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