第498話 たった1人で帝国の野望を阻止します⑧
大要塞マムルークを後にした私達は転移で王都へと跳んだ。
ようやく、転移が使えるようになった。
他国の人間を連れているのに大丈夫なのだろうか、このシステム?
イマイチ条件が分からない。
王都ブーランジュは戦争前だというのにいつもとまるで変わらなかった。
情報が統制されているのか、ダーダネルス・ガリポリはクロサガ王国の国土という認識が少ないのか判断に迷うところだ。
坂道を一気に駆け上がり王城に到着。
王城には警備の兵が詰めており、私を見ただけで兵士の警備の緊張感は一気に膨れ上がる。
入城禁止の措置はまだ解けていないのだ。そのことを話すとメッテルニヒに失笑される。
構わずディズレーリを呼び出す。
「春日井か…」
数分後、ディズレーリは疲れた足取りでやってきた。
相変わらず、忙しそうだ。以前よりも疲労が濃いように思える。
それだけでなく、以前見た時に感じた鋭さが無くなっている。
どうやら開戦前だというのに無為な議論で時間を浪費させているようだ。
なぜか人は緊急事態が起きた時でも普段通りの手法に拘ってしまう。
何を省略し、何を強権でゴリ押しさせていいのか分からなくなるのだ。
その結果、善良な人間はその場その場で考える。しかもベターな考えではなく、ベストな方法を模索するものだから余計に時間を取る。
さらに重要案件では全体の合意も取ろうするから最悪だ。
結果、緊急事態なのに優先順位を間違えたり、締め切りに間に合わなかったりと平凡なミスをする。
そんな苦悩がディズレーリの顔から、ありありと見えた。
黒佐賀直弟子の一人なのにわざわざ官の資格を取り直し、政治に参加しているディズレーリだがこういうまどろっこしいやり取りを本音ではどう思っているのだろうか。
まあ、そういう彼を私は今からさらに酷使する。
仕える相手、仕事をする仲間が変わるだけでやることはさらに悪辣になるわけだから僅かにディズレーリに対して罪悪感がわき起こる。
しかし、それを意志の力で押し殺し先に進める。
「とりあえず、無事に帰ってきて安心したぜ。だが帝国に行ってからまだ数日しか経ってない。何か講和の条件になるようなネタでも取って来たのか?」
粗雑な扱いをしながらも私に一縷の期待を抱いた様子だ。
事実を告げるのが心苦しい。
「いや、テロも講和も失敗だ。すまない。全面戦争が決定した」
「そうか…」
ディズレーリの表情は暗い。こうなる可能性が一番高いと理解していたはずなのにそれでも、その事実はショックを与えたようだ。
「そこで一兵でも多くの兵士を集めたい。力を貸してもらいたい、ディズレーリ。直弟子会議を開くんだ」
「阿呆か。誰の入れ知恵か知らんが俺とお前と後、グラッドストンか…最低でも後一人は直弟子の説得が必要だ。今から説得工作を始めても開戦までに間に合わんだろう」
「実はフェビアンを仲間に引き入れたんだ」
「フェビアンだと!? あの【白気殺し】のフェビアンか!!? あいつを更生させたのか…これで4人揃ったことになるのか…なるほど…それなら、確かに招聘も可能だが…」
「頼む、ディズレーリ。今はクロサガ存亡のためにどんなことでも試してみたい。直弟子招聘に力を貸してくれ」
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