第496話 たった1人で帝国の野望を阻止します⑥
「重ね重ねこの度の非礼につきましては誠に申し訳ありません。皇帝に次ぐ権威の持ち主であるなら【審理の石版】が入国許可を示すのも道理。どうかその審眼にて我が国との戦争が本当に貴国の利益になるのか御判断のほどよろしくお願い致します」
「だから決めるのは我孫子っすよ。私には何の権限も無いっすよ」
そう言い返すメッテルニヒに対しグラッドストンは柔和な笑顔で応じた。
そうして、話題を私に移した。
「春日井、これがお前の成果だな。おそれいった」
まるで自分の娘が賞でも取ったかのようにグラッドストンは手放しで褒めてくる。
「いや、偶然だし…というか、当初の目的から言えば完全に失敗だし…」
眩ゆいばかりの賞賛は私の心を苛む。
私は結局、侵攻計画に打撃を与えるという目的を果たしていないし、開戦も避けることができなかったのだ。
「【見守る人】が我が国に入国されるのも始めてだ。歴代皇帝は他国から選ばれることも多い。春日井は次期皇帝候補の1人なのだな」
「そうじゃ無かったら他国まで来て、わざわざ、ストーカーまがいの行為はしないっすよ」
メッテルニヒがグラッドストンの言葉に乗り余計な茶々を入れてくる。
「【見守る人】がいる前では帝国兵も非道な行いはしないだろう。それは皇権に楯突く行為だ。それだけ考えても春日井の成果は大きい。よくやったな、春日井」
「大仰なことを…フェビアンといい、黒佐賀直弟子っていうのは皆そうなの?」
私への見当外れな賞賛に対する照れから出た何気ない一言だった。
しかし、グラッドストンの反応はまるで違った。
「そうか、やはりフェビアンに接触したのか…あの山に【フォリー・フィリクション・フロック】がいると聞き、ずっと訪ねていきたいと思っていた。彼の才能は腐らすにはあまりに惜しい。マムルーク司令の職責が無ければ、すぐにでも駆け出していたのだが…」
遠い目をしてグラッドストンはマムルークから見える山々を見つめる。
「身に纏う【白気】の練度が数日前とは桁違いだとは気付いていた。フェビアンに師事すれば、その成長も納得がいくというもの。そうか彼は道を取り戻したのだな…お前がそのきっかけになってくれたのか…」
しみじみとした表情でつぶやく。グラッドストンに取ってフェビアンは特別な人間だったのだろう。
「この先、何が起ころうと私はお前の味方になると誓おう。たとえ、この国の全ての人間が敵に回ろうとも。黒佐賀直弟子の1人グラッドストンはお前を信ずるに値すると判断した。遠慮無く使い潰してくれ」
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。あ下は日曜日なので多分、PM投稿です。
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