第489話 墓場の賢者⑥
「ふん、なるほど確かに貴様は問いを発するものだな。都洲河が入れ込むのも分かるというものだ」
私の反論を聞いた我孫子は鷹揚にそんな感想を漏らした。
「ならばクロサガ王国の領土など忘れ、俺の部下になれ。貴様を帝国教育長官に任命する。口だけではなく、実際に政務を取ってみればよかろう。どのみち、普通の【領地経営】などでは貴様の器は収まりきれんだろう。俺の帝国だ。俺の推薦したポストでなら臣民は皆、絶対服従だ。七面倒臭い人間関係に煩わせられることもない。面白いとは思わんか?」
悪魔のような笑みで我孫子は私を勧誘してくる。
私がよく使う手を…
「メッテルニヒ、春日井を皇城へ案内しろ。御連れの方も御一緒にだ」
私が黙っていると我孫子は矢継ぎ早に指示を出す。
フェビアンもヨウメイも急な展開についていけず固まっている。
「待ちなさい。誰があんなたの勧誘を受けるって言ったのよ。謹んでお断りするわ」
「うん!? そうか、それほどクロサガ王国の領地が心配か…手をかけた領土が戦火に焼かれるのは見過ごせぬというわけか…そういうのは嫌いではない。ならば、お前の働きいかんではクロサガ王国侵攻は諦め、同盟を結んでやろう。無論、ダーダネルス・ガリポリ領はお前の領地のままだ」
ここに来てついに私達が最も欲しかった条件が出てきた。
私達が最も欲しかったものをノータイムで見抜いた我孫子は見事だ。
皆、一瞬、息を飲む。
この成果が欲しくて私達はココまでやってきたのだ。
それがこんな場所でこうも簡単に転がってくるとは。
しかし、私の心は納得していない。
恵んでやるという形では駄目なのだ。
独立とは自らの力で勝ち取らねば意味が無い。
そして、まだ足りないのだ。
永久不侵犯の条約を取り付けねば、私が不始末を起こした瞬間に我が領地は現状に戻ってしまう。
所詮、強者の気まぐれで施されたものは強者の場当たり的な思いつきで取り上げられてしまうものだ。
「あの日、生徒会室での一件が無ければ、その提案も聞いていたでしょうね。けれど、あの時、あなたは王の格を示し、私に侵攻計画を開陳した。ここでこの提案を飲めば私は完全にあなたの旗下に入ることになる。それじゃあ、駄目なのよ。私の王としての格がその提案を却下する。正々堂々、あなたの軍勢を蹴散らした後、不可侵条約と軍事同盟を締結し、その上でポストを勝ち取るわ」
「馬鹿な奴め。だが面白い。器の大きさで俺と競おうとはな…【生徒会長】以来といったところか…」
我孫子は尚も面白そうに呟いた。
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