第488話 墓場の賢者⑤
「勝手に見切りをつけてんじゃないわよ。どうして、その数%を数十%にする努力をしないのよ。そのための教育を施さないのよ」
私が反撃の口火をきると、我孫子の肩はピクンと一瞬震え、僅かに動揺が見て取れた。
「適正や潜在能力を図る? そんなのゲームシステムの枠組の一つじゃない。そもそも適正判定や潜在能力判定が完璧ならどうして数%のエラーがでるのよ。適正判定や潜在能力判定では測りきれない才能があるのことの証拠じゃない。NPCの可能性の否定してんじゃないわよ。彼女たちは私達以上に可能性を持った知性体よ」
エミリー、アクィナス、イヴァン、フェビアン、ヨウメイ、ネブラスカ。誰と話をしても人間以上に人間らしい行動を取る。
もはや、セカンドワールド・オンラインのNPCは従来のコンピューターゲームのNPCと同一視するのは不可能だろう。異世界の住民だと考えた方がしっくりくる。それほどまでにヴァラエティーに富み、一人一人の感情が複雑すぎる。
「そして、あんたの物言いには常に諦めがつきまとってるのよ。臣民の頂点に立つ者がそういう不景気な面をするのはやめなさい。現状に疲れきって、諦めてそれで何かが良くなる訳じゃないでしょう」
私の指摘に我孫子は奇妙に眉を捻らす。怒って反論してこないあたり自覚があるのだろう。
「難民は帝国臣民じゃない。それだってあんたの解釈一つでしょう。あんたは自分の子供の周辺に情けない大人がいて平気な訳? 周りが駄目な人間ばかりなら子供だって悪影響を受けるでしょう。思考がネガティブ過ぎるのよ。裏切りや打算、怠慢をベースに置き過ぎている。あんた、臣民に失望されるのがそんなに怖いの?」
行き掛けの駄賃に最初から我孫子に感じていた違和感も指摘する。
尊大な態度だけでなく、根底にあるマイナス思考も随分と癇に障っていたのだ。
これが一般人であれば私も気にしない。そういう個性を持った人間だと納得するだろう。しかし、我孫子は数千万の人間の頂点に立つ帝国の皇帝なのだ。
人の上に立つ人間が常日頃からこんな表情では誰もを不幸にしてしまうだろう。
「あんたにとっての帝国臣民って何なのよ、ただの道具? 税のための電池? 【皇帝】というジョブを存立させるためのただの駒?」
私は我孫子の目を真っ直ぐ見て、率直に問うた。
我孫子も【皇帝】として怯むことなく私の言葉に耳を傾けた。
だから私は飾ることのない自分の率直な気持ちを述べた。
「私達は万能者じゃない。全ての人の全ての幸福に責任を持つ必要は無い。それでもそこで暮らす人々の暮らしはより良いものになってほしい。幸せになってほしい。そう願い、行動する人間であるべきよ。そのために先頭をきって進む存在であるべきなのよ」
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