第487話 墓場の賢者④
「なら問うわ。難民を集め、教育を施し、自分で生計を立てさせ、自立を促すあなたの政策は素晴らしいわ。けれど、自立できたら、絞りとるだけなのが気に入らない。それじゃあ、まるで国家の電池を作ってるだけじゃない」
フェビアン、ヨウメイ、そしてメッテルニヒが見つめる中、墓場での奇妙な問答が始まった。
私はあえて挑発的な言い回しを使いペースを握ろうとする。
「ふん、なんの思惑もなく、お荷物の難民を受け入れたりするものか。国家の電池と表現したがそれの何が問題なのだ。解釈によっては帝国臣民は全て国家の電池だ。俺も含めてな。それより、歯切れが悪いぞ春日井。貴様が気に喰わんのは【高度適正判別プログラム】だろう。タンネンベルクと同じようなことを言いおって」
ペースを作ってから言おうと思っていたが我孫子の方から本丸に切り込んできた。
他人の意思など歯牙にもかけない、尊大な態度を取る男だと考えていたが思った以上に人の心の機微をつかむのが上手い。
今も私の心を正確に読んできた。
「国家が適正を判別し、臣民はその適正にあった職業につく。叡智を結集した都市設計を行い、臣民は国家の指導に従う。逆らった場合は国家の加護を失い、多くのペナルティーを負う。無能な人間をどうにか使えるようにするこのシステムの何が悪い」
【皇帝】として余程、このシステムに自信があるのだろう。
現実の価値観とは明らかに異なるはずなのに悪びれもせず言い放った。
「タンネンベルクにも説明したがこの問題の本質は国家の適正判別を超える才能を臣民が持っているかに帰結する。都市設計の加護を失ってさらなる成功を納められるか? それらを成功させる者は全体の何%か? せめてその者達の数は半数を超えるのか? これらの問いに春日井は答えられるか?」
ぐぐっ、私には応えることができない。
その答えは我孫子の立場を利するものだ。
しかし、表情ににじみ出てしまったのだろう。
私の答えを待たず我孫子は続ける。
「俺の導き出した答えは春日井の答えと同じだ。俺の調査では過半数にも満たなかった。全体の数%だけが適正外の才能を持ち、都市設計の加護を失ってなお、成功する。しかし、過半数の凡人は俺の作ったレールを外れて成功などしないのだ。彼らは成功者や立場のある者を妬み、僻みはするがそこで止まる。結局、時間という万能のポーションが凡人のささくれた心を癒やし、タイムリミットを与え、その生涯を終える。彼らは完璧な満足を得られなかっただろう。しかし、他人の目から見れば人生の大半を飢えることなく過ごせ幸せだったと映ることだろう。かくして、俺の作った【高度適正判別プログラム】は天下に比類無きモノと賞賛されるのだ」
それは誇るべき答えではない。
であるにもかかわらず、我孫子はそれを何の感情も見せず称える。
ただ、淡々と事実だけを述べているといった風だ。
「結局のところ、才能の無い者に特別な教育を施すなどリソースの無駄なのだ。一部の規格外のために全体のレベルを上げては凡人が困る。一部の規格外はシステムの枠にとらわれず自力で這い出てくるものだ」
言葉とは裏腹に我孫子には勝ち誇った様子は一切ない。この結果にまるで満足していないように思える。
どこか他にもっといい答えがあればいつでもそれを採用したいという渇望すら見え隠れする。
しかし、そんなものは無い。だから、現状これが最善手だとでも言いたいような雰囲気を醸し出してる。
ならば、それを叩き潰そう。
さあ、彼の言葉はじっくりと聞いた。
ここからは私のターンだ。
「そこがおかしいのよ。難民といえど、帝国臣民でしょう。言わば、あなたの子も同然よ。そこで終わるからあんたは2流帝国の2流皇帝なのよ」
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