第486話 墓場の賢者③
「…」
メッテルニヒの主張に我孫子は沈黙を保っている。
どうも部外者が踏み込んでいい空気ではない。
フェビアンも空気を読んで攻撃をしかけずにいる。もっとも隙を伺っている様子ではあるが。
「ふん、あんな古い約束をまだ覚えているとはな…」
あくまでもメッテルニヒのペースに巻き込まれないように我孫子は普段の尊大な様子であしらう。
しかし、どうにも相性が悪いようだ。
メッテルニヒは我孫子の作りだす雰囲気には流されず、瞬時に言い返す。
「我孫子にだけは言われたくないっすよ。死んだ相手にいつまで義理立てしてるんすか」
その一言で我孫子は重いパンチを受けたように沈黙してしまう。頻繁に墓参りをしていると聞くし、我孫子に取っては随分と特別な人なのだろう。
「先帝の意思を継ぐというのは極めて自然なことだと思うが…」
「今、誤魔化したっすよね。そういう態度は私らパーティーメンバーがいない場所でやるっすよ。何年、一緒に旅したと思ってるんすか。私のことをあんたが知ってるように私もあんたのことならたいていは分かるっすよ」
メッテルニヒがああも気安くしゃべれるのは我孫子を【皇帝】と捉えていないからだ。
昔ながらの友人としてしゃべっている。
こうなると我孫子も【皇帝】という職業を捨てて対処しなければならなくなる。
素の我孫子は思ったより打たれ弱かった。
「…」
「あ~あ~こういう態度を取ったらタンネンベルクは悲しむと思うな~せっかく、彼女の望む人材を連れてきたのに~志も風化していっちまうもんすかね~」
メッテルニヒはオーバーリアクションで嘆く。
とうとう我孫子の方が折れたようだ。剣を納め、私に相対してきた。
「ふん、まあ、いいだろう。後輩に皇帝の格というものを見せつけてやるのも面白かろう。さあ、どんな問いでも撃つがよい」
なんだか妙な流れになってきた。
私としてはメッテルニヒとの会話の中で他国の人間から見ても完璧な帝国の統治に一箇所、大きな穴が開いているのを見つけ、なぜその穴を塞ごうとしないのかを聞いただけだったのに。
今となってはなんであそこまで熱意を持って聞いたのかも分からない。
おそらく現実世界でも起こり得ない完璧な統治というものが目の前にあるのにその一部が欠けていたのが許せなかったのだろう。
メッテルニヒの進めに従ってここに来たのはそれを問うためではあったがメインの理由はプレスビテリアン帝国の矛盾点を理解することで帝国内部の不満分子と協力できないかと思ってのことだ。
それがなんで【皇帝】と直問答する流れになってるんだ。
いや、コイツを我孫子だと、【皇帝】だと思うからいけないのか。
【墓場の賢者】だ。そう思って対応しよう。
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