第472話 帝都襲撃⑪
フェビアンが白煙の中から出てくると、城壁からボールのようなものが次々と飛来してくる。ボールは地面に落ちると大量の白煙を撒き散らしていく。
あっという間に広場全体が煙で覆われた。文字通り視界が一切、利かない。
ヨウメイの援護射撃だ。【気】でフェビアンの位置を正確に特定し、そこを狙ってパチンコで白煙弾を撃っているのか。
白煙弾で視界を奪われた兵士達は同士討ちを避けるため、統率の取れた行動が取れていない。
対してフェビアンはその隙を逃さず、装備していた蛮刀でバッタバッタと兵達を斬り伏せていく。驚くべきことにフェビアンは自ら瞳を閉じた状態で戦っている。
ヨウメイと同じように【気】の反応でどこにどんな人物がいるのか完全に把握しているのだろう。
索敵系の気のスキルだろう。
みるみるうちに死体の山ができあがっていく。
私が殺害を忌避していたのとは大違いだ。
しかも、そのほとんどが容赦なく頸動脈を断ち、致命傷になっている。
「迷うな、春日井! 殺される覚悟のある奴だけがこの場にいる。お前の行為は彼らの覚悟に対する冒涜だぞ」
フェビアンはそう言いながら私のために血路を開こうとしている。
だが、それは捕食者の道理で誰だって死にたくないし、ケガなんてしたくない。
戦闘系の職業を選んだのだって、やむにやまれない理由があったのかもしれない。
そんなふうに想像を働かせてしまえば、私の拳はどうしても鈍る。
必然、フェビアンと異なり致命傷を与える威力ではなく、意識を刈り取るだけの加減された一撃となる。
私の【黄金気】も、もはやオートで絶妙のダメージコントロールが為された拳撃を形成している。
だが、この方法では1日も横になっていれば完全回復し、また戦力の一部になる。
私の力が強くなりすぎてうっかり殺してしまった。なんて事態に陥らない分には助かるが今回の目的は敵の戦力に打撃を与えることである。
私がやっていることは明らかに私の作った目的から反している。
むしろ、殺害するよりも致命傷を与え、ワザと生かし、後送させた方が敵に無駄な手数を強いることができる。
それが戦闘というものだ。
頭では分かっている。
しかし…
目の前で生きた人間の姿を見ると…
私は…
「そんな状態ではこれ以上進むのは危険か…今日のところは威力偵察が成功したと考えるべきか。引くぞ!」
フェビアンは私の不甲斐ない姿を見て、吐き捨てるように指示を出した。
確かにこんな私の状態ではフェビアンの方が指揮者に向いている。
私は悔悟の念を抑え、フェビアンの指示に従う。
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