第465話 帝都襲撃④
腰に蛮刀を刺したゴリラのような男が歓迎の挨拶をする。風体は厳ついが腰は低い。揉み手で用件を聞いてくる姿が不気味極まりない。
隣には目に大きな隈を作った女が書きものをしている。コチラは打って変わって無愛想。彼女も短剣を刺している。私達を一瞥だけするとまた元の書類作りに戻っている。時折、飲み物を口にしているのだがどう考えてもアレは酒だ。ビンのラベルから、かなりアルコール度数が高いことも察せられる。
「【フォリー・フィリクション・フロック】の皆様だな。お仲間から幾つか御伝言を預かっとるぞ。ご要望はねぐらと情報の提供。まずはねぐらに御案内するぞ」
珍妙な敬語でそう言うと受付の男が先導してくる。
「仮の活動拠点として盗賊組合の一角を間借りしたんだ。盗賊組合自体が社会の暗部だ。ココに踏み込まれることはまず無え。後ろを気にせず完全な休息ができるって利点は大きい」
フェビアンは案内されながら自慢げに経緯を説明してくれる。
「盗賊組合ってのは貧民街にあると思うだろう? ああいった場所は日銭欲しさに密告の危険が渦巻いてるから駄目なんだ。対してココの立地は3代前から盗賊組合に加担している。周辺の店舗、住宅も皆グルだ。帝都の奴らも知ってるは近づかねえ。まあ、元々、立地が悪いから用事がないと誰も近寄らねえがな」
案内された部屋はソコソコ大きくベッドも備え付けられていた。奥にも部屋があり、男女別に眠ることも可能のようだ。
受付の男はフェビアンにメモのようなものを渡すと礼をして帰っていった。
フェビアンとヨウメイは荷物を下ろすとベッドに胡座をかいて座る。2人共一気に緊張感の抜けた顔になる。
特にヨウメイにこの行程はキツかっただろう。私達は【気】で強化された脚力で旅路を進んだが彼女の【気】の扱いは一人前には程遠い。追いていくやっとだったはずなのに弱音も吐かずによくココまで辿り着けた。もう少し休ませてあげよう。
私も感情の整理をするのに時間が欲しい。
今の私の心中は複雑だ。
私の目的達成のためとはいえ、犯罪者集団の手を借りる羽目になったためだ。【フォリー・フィリクション・フロック】は金持ちしか狙わない。殺しは極力避ける。フェビアンが紳士的なので団員も自然、乱暴な真似はしない。社会からはみ出してしまった者を支援するという高い志と教育機関の設置。およそ盗賊団らしからぬ善良な盗賊団なので一緒にいて、忌避感のようなものはまるで感じ無かった。 自分勝手な感情論だということは重々承知している。しかし、湧き上がる感情というものはどう処理すればいいのだろうか…
クロサガ王国にも盗賊組合というのはあるのだろうか…
「クロサガ王国には盗賊組合はないぜ。ソコソコの人口を誇る国でないと支店すら置かれねえ。クロサガ王国は治安がいいから余計だな。盗賊の数が一定数を越えないと盗賊組合を維持することも不可能なんだ」
私の表情から私の気持ちを読んだのだろう。フェビアンがポツリと盗賊組合について漏らす。
「それに春日井が思う以上に【フォリー・フィリクション・フロック】も汚れているぜ。今回も【フォリー・フィリクション・フロック】の実績があったからこそ盗賊組合が利用できた。貸し借りや情報提供、人員派遣、トレード、まとまった数のシェルなんかで代価を払ったんだが…」
そこでフェビアンの語りが止まる。今度はじっと私の目を見てハッキリと不満を口にした。
「浮かない顔だな、春日井。ならハッキリ言ってやる。どの道、春日井や一般の人間が盗賊組合の存在を見つけるのはまず、無理だ。領主として警察力を上げて聴きこみと逮捕者からのリークを利用すれば可能かもしれないがそれも仮定の話だ。たとえ、犯罪者組合を一つ潰しても、また時間と共に現れる。社会の暗部ってのはそういうものだ。完全に消去するという発想の方がしばしばマズイ結果を招くって歴史が証明している。だから路傍の石のような存在にイチイチ気をとめんな。そういう不景気な顔をされると苦労して絶対安心のねぐらを手に入れた俺の努力も無意味なことだったのかとモチベーションが下がる」
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