第461話 盗賊団のアジトへようこそ⑨
「げっ…なんでこの女がまたいるんですか…」
ヨウメイは私の顔を見るなり声に出して嫌悪感を露わにした。フェビアンがヨウメイに事の次第を話すために頭目の部屋に呼んだのだ。
「先程、皆の前で正式に通達したはずだぞ、ヨウメイ。お前もいただろう。ボス、あるいは姉御と呼べ。敬意を示せ」
敬意を示せの下りはありがたいが姉御って…
私の内なるツッコミを尻目に目の前ではえらく真面目な会話の応酬が繰り広げられている。
ココは盗賊団なのだが…
「自分の感情のまま生きていける組織などない。それが組織というものだ。昨日も言ったな、嫌なら出て行けと」
そう、告げられたヨウメイは目に見えて気落ちする。
それで、反省したと考えたのかフェビアンは要件を切り出す。
「喜べ、ヨウメイ。お前は帝国行きのメンバーだ。しかも、ボスと俺とが参加する中核メンバーの一員だ」
帝国行きのメンバーと聞いた瞬間、花が咲き誇るように笑顔になる。しかし、私と一緒と聞いた瞬間には何ヶ月も水をやっていない花のように萎れていた。
先程、注意を受けたばかりなので言葉で文句は言ってこない。目で私の存在が邪魔だと訴えかけてくる。将来的には【魔眼】のスキル獲得もできそうなぐらいその視線は鋭い。
しかし、そのような小手先の技がフェビアンに通じるわけがない。
「春日井。やはり、不安だ。帝国の中枢に潜り込むのだ。春日井のパーティーは精鋭でなければならない。信頼関係に問題があるものを連れていくのは自殺行為だ」
そんなヨウメイの態度を見てフェビアンは反対意見を述べてくる。それも本人の目の前でだ。
フェビアンはヨウメイの前でも一切、容赦のない主張をしてくる。
そしてヨウメイはフェビアンの冷酷な評価に泣きそう顔をしている。
やはり、言い出しっぺの私が助け船を出すしかないか…
「私が嫌いでも仕事はちゃんとこなすわよね、ヨウメイ。私の言うことは聞けなくてもフェビアンの指示なら聞けるわよね」
私からの大幅譲歩の提案にヨウメイは目を丸くしている。そして、か細い声で返事をする。
「はい。それは…今まで通りなので…」
消極的な返事だが敬語を使っているので彼女なりに努力しているのかもしれない。私の問いに対しても正面から応えた。これならコミュニケーション可能だ。
「だったら問題ないわね。これは私の決定だもの。いいわね、フェビアン?」
私はワザと肩肘を張った言い方をし、フェビアンからノーという選択肢を奪う。
フェビアンもこれだけ頑なにヨウメイの随伴を嫌がるのは根底に彼女の身を案じてのことなのだろう。
ひょっとしたら信頼関係に問題があるというのは口実で本当のところはヨウメイの防御力の低さを案じているのかもしれない。
だとしたら、私のやっていることはひどく過酷なことだ。
「ボスがそういうなら反対はしないが…」
渋々といった様子でフェビアンがようやく了承の返事をした。
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。明日は日曜日なので夕方以降の投稿だと思います。
ブックマーク、感想、評価、メッセージ等あれば何でもお待ちしております。
皆様のポチっとが私の創作の『最高の眠りを得るためにはある程度疲れることが必要だと理解した』(意味不明)ですので何卒よろしくお願いします。