第453話 盗賊団のアジトへようこそ①
「立てる?」
「ああ…」
ふらつく足取りでフェビアンは私から離れる。
フェビアンは先程から自分でも【白気】を使い回復している。私よりも練度の高い【白気】だ。回復の速度も違う。みるみる傷口が修復されていく。
但し、【白気劫濁砲】で体内の【白気】を絞り出してしまったのだろう。そのまま、回復を継続させればすぐに元通りなのに中途半端ところで治療を止める。
それでも身体の傷はおおよそ塞がっている。生命エネルギーである【気】を大幅に枯渇させてしまったから動けないのかもしれない。
彼ほどの達人であっても【気】には底が無いという概念設立にはほど遠いのか。
頃合いを見計らったように後方で倒れていた3人も寄ってくる。狸寝入りだったのか。まあ、これだけの時間があれば並みの【気】の使い手なら自力回復を終わらせる。
正直、フェビアンとの戦闘が激しくなると警戒に回す余力は無かった。それでも彼らが一騎打ちに乱入してくることは無かった。
盗賊団といえどもフェビアンの弟子だけあって誇りを知っているということか。頼もしい部下を持ったものだ。
もっとも最初に落とした1人はまだ、意識を失ったままだが。
「今日の山越えは無理だ…行っても野宿になっちまう。帝国行きのメンバーも選抜したい。今夜はアジトに泊まれ」
フェビアンが現実的な提案をしてきた。私がこのまま帝国に乗り込む雰囲気を出していたからだろう。
確かにフェビアンと意識を失った男の治療もある。無念だが今日の帝国入りは諦めるか。
一番元気な私が気絶した男を担ぎ、フェビアンの先導でアジトとやらに向かう。
盗賊団のアジトに女の私1人が向かって大丈夫かという不安はあるが一応、私が最高経営責任者になったのだ。大丈夫だろう。
フェビアンの指示通り、正確に彼の後を追いていくと15分程でアジトに到着した。
ちなみに手順を間違えると凶悪な罠が牙をむくとのことだ。【トラップ設置】の【スキル】を持ったメンバーもいるのか。後で教えてもらおう。
というか、ソイツは選抜メンバーに決定だな。
アジトは切り立った崖の上にログハウス風のスタイルで存在していた。思いのほか広く、炊き出しや戦闘訓練をしている盗賊もいた。
よく見れば女、子供も混ざっている。丸太に向かってナイフ投げの練習をしている姿はシュールだ。
フェビアンが帰ってくると皆、友好的な雰囲気を醸し出す。しかし、その後、私を見ると緊張感を取り戻す。背に負った男を見るとさらに視線は険しくなる。
中には武器を構えるメンバーもいた。
やはり、盗賊団を統率するのは一筋縄ではいかないだろうな…と私は久しぶりに暗澹たる思いに囚われた。
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