第449話 盗賊団フォリー・フィリクション・フロック⑦
「悪いがその提案は受けられない」
私はフェビアンの目を見てキッパリと断る。
「その生き方には決定的に誇りが欠けている」
侮蔑的な言い方をしたのにフェビアンの瞳に感情の揺れは見られない。むしろ、やっぱりなといった感じの表情をしている。
「何の束縛もなく、衣食住の全てが揃っている。それは確かにとても幸福な状態だ。けれど、フェビアンあなたはその状態で尚、満たされていないんじゃないのか?」
私の回答はフェビアンの内面へと切り込む。
こういう答えが返ってくることをフェビアンはまるで予想していなかったのだろう。ようやく表情に変化が見られた。
「そもそもフェビアン、あなたはなぜ、私を誘った。その根底には燻りがあったからじゃないのか? 即ち、あなたは食って、寝て、飲んで、遊んでも満たされてはいない」
私の指摘にフェビアンはますます顔を曇らせていく。自分でも自覚があったのだろう。
「私の才能を惜しんだから? 違うな。自分で自分の道を切り開くお前がなぜ他人に才能を求める。自分はまだまだ、強くなれる。しかし、その強さの限界がおぼろげに見えてしまったんだろう。人はそれを行き詰まりと呼ぶのだ」
フェビアンはとうとう苦虫を潰したような表情に成り下がった。
私との戦闘でフェビアンは喜びを感じていた。
こんな山での追い剥ぎで生計を立てていたのだ。とても好敵手など臨めなかったのだろう。
自助努力にも限界がある。どれだけ、熱心に修行しても1人でできることなどタカが知れているのだ。
「行き詰まり、誰かからの承認を欲した。お前は誰かに感謝されたかったんだ」
私の口撃はまだまだ続く。なぜならば、彼は助けるに足る人間だからだ。
「当然だ。盗賊という職業に誇りなどない。命を奪わないといって、それで感謝されるわけでもない。あるのは他人からの軽蔑、怨嗟、侮蔑だけだ」
フェビアンはなぜ大陸一の強さを口にしたのか? 私はそれを他人からの承認が欲しいからと考えた。
「マズローの欲求段階説を出すまでもない。全てを手にいれても、他人からの承認がなければ、いずれ行き詰まる」
なぜ他人からの承認が必要なのか? それは衣食住の生存要求が達成された人間が次に求める根源的な欲望だからである。
「私には為すべき責任がある。だから、お前の提案は受けられない。困難な道だということも理解している。だが、きっと達成できた時、最高の笑顔でその時を迎えることができる」
私の最後通牒にフェビアンの身体は崩れていく。彼はむしろ私の口撃が終わることを喜んでいた。
「これがお前の私に対する誠意ある提案に対しての答礼だ。そして、フェビアン、ここからが私のお前の提案に対しての返礼だ」
だが、私のターンはまだまだ終わらない。ここからが本当の口撃なのだ。
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