第448話 盗賊団フォリー・フィリクション・フロック⑥
「なあ、提案なんだが、戦闘を止めてお前、俺の部下にならねえか?」
突然、フェビアンは素っ頓狂な提案をしてきた。
「お前は戦闘に関しては天才だ。今まで我流でやってきたんだろう。俺ならもっと体系的に教えてやれる。十数年もすれば俺を抜いて確実に黒佐賀にも勝てるだろう。大陸一の強さを得るのも夢じゃねえ」
友好的な雰囲気を醸し出しフェビアンはあくまで本気だ。
ディーラーが自分の推薦する車を心の底から賞賛しているように、フェビアンもまた自分の提案を心の底から素晴らしいものだと考えているのだろう。
「俺らは盗みはしても殺しはしねえ。狙う相手も金持ちばかりだ。弱い奴からは盗まねえ。それでも盗みが嫌なら用心棒や戦闘訓練の担当になればいい。皆、気の良い奴ばかりだぜ。なにより束縛ってもんが一切ねえしな」
フェビアンは動揺した私の様子も構わず話を続ける。
「ダンジョンに潜るって手もあるな。そこで腕を磨いて大陸最強になれば、出自や経歴なんて問われねえ。士官の道は掃いて捨てるほどある」
私が犯罪行為に手を染めるのが嫌だと思ったのか、迂回策まで提案してきてくれる。
「このまま、領主なんかやっても意味ないだろう。地に落ちた名声を回復させるには将来を賭す必要がある。いや、そこまでやっても取り返せる保証はねえ。領主なんていうのは結局は調整役だ。税が不足すれば、徴収しねえとならねえし、それをすると領民から恨まれる。だからといってソレをやらなければ仕事がまわらず、最終的に的に領民に恨まれる。どこまで行っても報われない仕事だ。ままならない人事、非効率的な作業、多種多様なルール。終わりのない労役はお前を消耗させるだけだ。お前を成長させることはねえ。そんな仕事になんの意味がある」
フェビアンにも似た経験があるのか、他の17領主の執務を見たことがあるのか、領主の仕事を正確に理解していた。
「盗賊はいいぜ、気の向いた時、食って、寝て、飲んで、遊ぶ。全てが自由だ。お前ぐらいの強さがあれば、敵もいない。儲からなくなれば賭場を変えればいい。お前の才能があればどこでも通用する」
フェビアンの言葉は自分自身に言い聞かせるような言葉であった。そう自分が思い込まなければ、今の仕事を維持していけない必死さがあった。
「悪いことは言わねえ。俺に追いてこいよ。お前のような天才は独りでいるべきでない。その才能を研磨するパートナーと潤沢な環境を与えてやる理解者が必要だ。俺ならそれを与えてやれる」
それは一切の邪気なく、純粋な好意に満ちた誘いだった。
フェビアンは私のために本当に良かれと思い提案しているのだ。
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