第433話 我孫子陣営の中に潜り込め⑰
「待って下さい。この女が行おうとしたのは盗聴です。そんなことをするプレイヤーは問答無用で切り捨てればいいではないですか、それがこの世界のルールです!」
「春日井、【隠蔽】を使って生徒会室に入ったのはなぜだ?」
面白くなさそうな表情で我孫子は自ら質問する。
私の出す答えを予想しているのだろう。この質問はあくまで雨佐美を納得させるだけのものだ。
だから私は我孫子の予想した模範解答をそのまま提示する。
「私は皆様方の素の議論の様子が見たかったのです。饗してもらおうとは思っておらず、私の存在が皆様の邪魔になってはならないと配慮し【隠蔽】を使ったのです」
「いけしゃあしゃあとよくもそんな戯言を!」
「止めろ、雨佐美! 貴様の方法論には無理がある。そもそも議論の土台が間違っている。盗聴などされる者がマヌケなのだ。自分の敵対する相手にどうして善人であることを期待する。だからお前は弱いのだ」
その我孫子の一言で雨佐美は沈黙した。
「なら、俺がこの場で野良バトルを挑みますよ」
今度は阿来津が参戦してきた。しかし、我孫子は即座に切り捨てる。
「愚か者。俺は先程、都洲河に床を血で汚すなと叱責したばかりだ。春日井はそこまで読んで行動している。ここで戦闘をし、構造物に一切、危害を加えずに戦えるのか。相手は【神亀】をも下した【黄金気使い】だぞ。俺の言葉に泥を塗る気か」
「だったら、これから行なう軍議をダミーで…」
なおも雨佐美は食い下がり、我孫子に反論しようとする。
「たわけ! わざわざ雑兵を蹴散らすためにこれから数時間、偽りの軍議をしろというのか! 貴様の無為な時間と俺の希少な時間、同じだとでも言うつもりか!! 情報が漏れたところで何ら関係なし。雑魚がどのような対策をしようと全て叩き潰す。それこそが皇帝の進軍よ」
雨佐美がこれほど抗弁する理由がようやく分かった。
我孫子の性格を読んでいたからだろう。
私もまさか軍議の内容をカモフラージュなく全て傍聴できるとは考えていなかった。
雨佐美は我孫子が傍聴の許可を出した時点でこうなることを予想していたのだろう。
実際、私としては軍議を傍聴し、そこから反例や類例を検証するつもりだった。
数時間の軍議を全てダミーで進めることなど不可能だ。
中には本当の情報だって混ぜるし、本当の情報を加工して俎上に載せるかもしれない。
ダミー情報を精査し進軍時期だけでも分かれば儲けものと、私は先程から詭弁を吐き続けていたのだ。
「それにこれほどの妙手を打つプレイヤーを蔑ろにしろというのか。それこそ、俺の格が問われるわ」
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