第426話 我孫子陣営の中に潜り込め⑩
「では、後は頼んだのだよ」
そうスタッフに告げると【喫茶MAOU城】から都洲河が出て行く。
都洲河が資料を片付け始めた頃、リヒャルトシュトラウスから連絡をもらいスタンバっていた。おかげでその間ずっと自宅で休めた。ありがとうリヒャルトシュトラウス。
誰も都洲河を見送る者はいない。彼自身が不必要な儀礼を嫌っているからだ。
都洲河は黙々と先へ進んでいく。
さあ、尾行の開始だ。
【神器:隔離天上の薄布】は存在そのものを消すアイテムではない。周囲の背景と同化するカメレオンのような【スキル】と考えればいい。五感に作用し視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚にダミー情報を流す。触覚も隠蔽しているので触っても分からない。ただ、殴れば当然、私はダメージを受ける。殴れて倒れれば背景の違和感から察知されるだろう。
問題なのは五感の偽造程度ではハイランカーはだませないということだ。その程度の偽造で事足りるならあっさりとPKされているとのことだ。
けれど、今のところ問題は上手くいっている。都洲河も八束学園の中で襲撃を受けるとは想定していないはずだ。
長身の都洲河の歩みは大きい。私は小走りで追いかけないと追いつかない。
細心の注意を払っているので呼吸が乱れる。
聴覚も隠蔽しているので呼吸音は聞こえない。しかし、できる限り浅い呼吸を心懸ける。それとも妙な呼吸法は逆効果だろうか…
しばらく歩いたが【転移】する様子はない。【喫茶MAOU城】の入り口で【転移】しなかったからこの八束学園の内部で会合が開かれる可能性は高いとは思っていたがどこまで行くのだろう。
そう思った瞬間、突如。都洲河が走りだす。すぐに追いかけねば見失うレベルの全力ダッシュだ。
ここで見失うわけにはいかない。【黄金気】を展開しすぐさま追いかける。
凄まじい轟音を立てたが都洲河は気付いていない。
大丈夫だ。まだ【神器:隔離天上の薄布】は効いている。
200メートルも走っただろうか、いきなり、都洲河は立ち止まり私のいる空間を目がけて無数の【闇弾】を撃ってきた。
受ければ【神器:隔離天上の薄布】が剥がれる。鋭角に回避。全てやりすごす。
「なかなか見事な【隠蔽】だが隠蔽しての尾行なら、足場にも気を配るべきなのだよ。おかげで存在の確認ができた。ネタの割れた暗殺者など2流以下。隠れても無駄だ。出てくるのだよ」
ぐっ、気づかれた!
まさか音ではなく、床を見るとは!? 確かに急加速、急減速をしたせいで床が傷んでいる。【神器:隔離天上の薄布】は私の全存在を隠蔽できるが、私が壊した物品まで隠蔽できるわけでない。
そんな探知法を使ってくるとは…
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