第425話 我孫子陣営の中に潜り込め⑨
「これって暗殺にも使えるレアアイテムじゃん…」
私は思わず感想をこぼす。【神器:隔離天上の布団】は設置された部屋ごと存在を消していた。回数制限があるとはいえ、設置場所を固定しなくていいなら暗殺でも覗きでも何でもし放題だ。書類を偽造することだってできるし、テストの問題を事前にコピーすることだってできる。
「正確には【殺意】などを感じると薄布が溶けてしまうから暗殺には使えないだろう。それでも潜入工作や窃盗などには無類の力を発揮する超レアアイテムなのには間違いない…」
腰に手を当て、ドヤ顔でリヒャルトシュトラウスは自慢する。
「それよりもワタシ的には顧客の情報を売る方に罪悪感を感じるな…」
そうだった。あらゆる分野をやり過ぎてしまうリヒャルトシュトラウスは当然、社内規則についても必要以上に学んだのだろう。業務で得た情報を社外の人間に流してはいけないなんてことは社会人として常識だ。
それを完全に理解しているからこそ後ろめたさを感じているのだろう。
「本当にいいの?」
「いいのも何も、顧客情報はもう流した。今更、聞かなかったことにはできないだろう」
リヒャルトシュトラウスは薄く笑った。あまり積極的でないリヒャルトシュトラウスが自分から情報を仕入れ私に流してくれた。しかも、自分の筋を曲げてまで。きっと先日のお礼なのだろう。だったら、これ以上詮索すべきことではない。
「リヒャルトシュトラウスには我孫子の情報が欲しいと直接的に頼んだことはなかったのによく分かったわね」
私はリヒャルトシュトラウスの好意への照れ隠しに話題を展開させる。
「そのぐらいは接客の内だ。会話の中からお客様が何を求めているかを推察するのも仕事の内だ。普段なら守秘義務に該当するから絶対に漏らさないが…まあ、今回は特殊なケースだ」
リヒャルトシュトラウスもあさっての方向を見ながらぶっきらぼうに答える。彼女も自分の行動が普段とあまりに違うので恥ずかしいのだろう。頬を掻きながら強引に話題を変える。
「そんなことより、問題は会合場所だ。どこでやるのか検討がつかん。転移を使われればそれでお終いだ。【神器:隔離天上の薄布】を使って尾行するにしても都洲河が相手だとかなり難易度は高いぞ。なにしろ相手は【魔王】だ。【探知】のスキルなんかは持ってないだろうが卓越した戦闘経験はあらゆるスキルを超越する。あいつは日常の微かな違和感も見逃さないだろう。【神隠し】の神器があるからといって安心するなよ」
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