第422話 我孫子陣営の中に潜り込め⑥
リヒャルトシュトラウスの長い独白を聞き終わると頭がクラクラしてきた。
何なんだ、この女は…訳が分からない。
言っていることは分かった。
彼女の職歴も分かった。それが今の彼女の人となりを作っていることも。
しかし、破綻すると分かっていてなぜ働き続けたのか?
なんで私に言うなり、都洲河に忠告しなかったんだ?
働くという行為に復讐したかったのか?
愚かな経営者への当て付け?
【経営者】という職業自体への復讐?
これも【ジョブ】を得るための【特殊条件】なのか? こうすることで【堕ちた勇者】などの特殊な【ジョブ】が手に入るのか?
そもそも最初の質問に都洲河が完璧に答えていればこの状況は防げたのか?
私が嫌がるリヒャルトシュトラウスを招いたのが原因か?
だったら、どうしてあれほど一生懸命に働いてくれたんだ?
結局、彼女はどうして【店舗経営】に参加してくれたんだ???
リヒャルトシュトラウスの行動は支離滅裂じゃないか!
彼女だって自分がどうしてこんな行動を取ったか分かってないんじゃないか!!
いや、待てよ…
そうか、それが答えか…
「リヒャルトシュトラウスさんは何のために【店舗経営】に参加してくれたの?」
私はできる限り穏やかな声音になるよう意識して尋ねる。
「それはお前が熱心に誘うから…」
「私が聞いたのは『何のために?』だよ。『どうして?』じゃないよ」
ここで最も重要なのは責める気持ちを微塵もみせないことだ。ただ、純粋な問いを投げかける。互いの胸の内に生じた違和感を解消するために。一緒に問題を解決するために。
「それに今の答えは嘘だよ。私が熱心に誘ったのは事実だけど、決定権はリヒャルトシュトラウスさんにあった。強制的に連れてきてもサボることも、逃げることもできた。今みたいにお客さんを呼びこむ効果のある模範的な接客なんてしなかったでしょう」
彼女自身もなぜこの結末になったか分かっていない。彼女はただ、がむしゃらに自分の仕事をこなしただけでこの結末を迎えたのだ。この結末は彼女が望んだ結末ではない。彼女が望んだ結末は別に確かに存在したのだ。だから、私のスカウトを受け入れた。
「リヒャルトシュトラウスさんが勤める前にこの店でやりたいって思ってたことって何だったの?」
「私がやりたかったことは…そうだな…顧客重視か社員重視か利益重視か、その答えを見つけたかったのかな…私には何も無いからな…ただ、働いている時は、目標に向かって走っている時は楽しかったように思う」
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