第420話 我孫子陣営の中に潜り込め④
「どうした春日井? 来店するには遅すぎたぞ。ラストオーダーはとうの昔に締めきったぞ」
閉店した店を見上げリヒャルトシュトラウスは軽口を叩いてくる。
私は勤務を終え、私服に着替えたリヒャルトシュトラウスが【喫茶MAOU城】から出てくるのを待っていたのだ。
由香里から聞いた事実を確かめるために。
「2人っきりで話があったから来たんだ。場所を変えたいけど、いいかな」
「なら、中で話そう。今日は私が当直だ。中には誰もいない。オーナーも今日は帰った」
消灯してあった店内に再び明かりをつけ、私の指定席につく。
席についた途端、前置きもなくリヒャルトシュトラウスはいきりなり切り出した。
「話というのはアレか。利益が残らない理由か? それともスタッフ同士がギスギスしている理由か?」
口元に笑みを浮かべながら、リヒャルトシュトラウスは自分からゲロった。
やはり確信犯だったのか…最初から素直にリヒャルトシュトラウスを問い詰めればよかったのか…
「私は一番、最初にオーナーに問うたはずだぞ。最大利益の追求か? お客様の笑顔の追求か? 社員の満足の追求か? 3つの内どれを選択するのかと?」
こうなることを予期しながら悪びれもせず、リヒャルトシュトラウスは弁解する。いや、こんなものを弁解と呼んでいいのかも分からない。
「オーナーは決めきれなかった。だから私が選んだ。私が選んだのはお客様の笑顔の追求だ。必然的に最大利益の追求は第2条件となり、社員満足は第3条件に位置する。己の全てを捨てて全てはお客様のために! これを選択すると接客の品質向上や新サービス、新商品のためにリソースを裂き、長期的には必ず店舗のためになる。お客様は喜び、また店舗に足繁く通ってもらい、新規顧客も増える。しかし、短期的には新サービスや新商品開発のために利益を喰う。品質の向上もそうだ。これまで1分でやっていたことを品質向上の名の元に3分かけてやるのだ。効率は落ちる。しかも、客数は増えているからさらに時間を取られる。にもかからわらず、社員には同じ人数、同じ時間しか与えない。これまで同じ時間で10の仕事をしていた人間に15の仕事をさせればギスギスするのは当然だろう」
リヒャルトシュトラウスは熱に浮かされたようにしゃべり続ける。
「おそらく、次にオーナーが取る手段は人件費の削減だ。利益が減っている。利益が減っている原因は人件費の増大。ならば、人件費を削ろうとなるわけだ。具体的には残業を止めさせる。時間という分母を削ることで15の仕事が18にも19にもなる。こうなると品質は落ちまくり、普通の仕事すら満足にできなくなる。客からも愛想を尽かされ、客数が減り、人員の維持すらできなくなる。そうなると、リストラが噂されてくる。ここまで来れば面白いぞ~集団退職とか普通に発生してくるからな」
「そこまで分かってるならなんでもっと相談なり、忠告してくれないんですか!」
「だから、最初に言ったろう。私はやり過ぎてしまうって」
それは私がリヒャルトシュトラウスのスカウトに成功したした時、彼女が漏らした言葉だ。
「それにオーナとしては極めて正しい。同じ給料を払うなら社員の生産性を極限まで上げる。社員の感情など切り捨ててな。そうすることでが最大利益の追求は為される。『絞れば絞るだけ出てくる』それは経営者なら誰もが考え実践することだ。都洲河を責めることなんて誰にもできない」
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