第415話 失った信用が背後から私の首を絞める③
海と山に囲まれた変わらないのどかな風景が私の前に広がっていた。
私の心はこんなにもささくれているのに自然の雄大さはそんな私の心を尊爵することもなく只、そこにある。
せっかくゲームの中なのだからもっと私の心情を映す激情型の風景であってもいいのに…
そんなことを思いながら嘗て登った坂道を再び登る。
【黄金気】で強化された脚力なら一瞬だ。昔は私の到着をエミリーが待っていてくれたものだが…
ガリポリ領主館の玄関には以前はいなかった門番がいた。しばらく、こない内にが治安が悪化してしまったのか?
不安な想いが胸に去来する。
いや、大丈夫だ。
腰に剣こそ佩いてはいるが手には箒を持っている。どうやら門番が暇なので掃除をしているようだ。
急ぐので黙礼して通りすぎようとすると覚えのある風貌が目に入った。
私の部下のイヴァン・カロリングだった。
「春日井領主…」
イヴァンも箒を持っている姿が気恥ずかしいのか後ろ手で箒を隠して私を呼び止める。
まだ私のことを領主と呼んでくれる。ありがたい。
ちょうどいい、イヴァンにネブラスカへの取り次ぎを頼もう。
私が事情を説明するとイヴァンは親身になって聞いてくれた。
「それで? どのルートを通るのですか? 敵の規模は?」
やはり、非常に具体的な中身を聞いてくる。私はディズレーリに説明したのと同じような曖昧な説明をし、ネブラスカへの面会を求める。
しかし、返ってきた答えは予想外のものだった。
「申し訳ありません、春日井さん。あなたをこの領主館に入れる訳にはいきません」
キッパリとした口調でイヴァンは私を静止した。
「既に私の指揮権はネブラスカ一等執政官に移譲されており、現在私の任務は賊の侵入を阻止すること、春日井さんを領主館に通さないことこの2点に限定されております」
元々、あまり感情を表に出さないタイプの人間だったがイヴァンは衝撃の事実を淡々と話続ける。
「賊がこの領主館を攻めてくることなどありえません。よって、私の任務は春日井さんを通さないこと。これ一点に集約されます。事実上の左遷ですね」
イヴァンは苦笑いをした。自分のことであってもその語り口には抑揚がなかった。まるで自分の行いを恥じているように現状の報告をした。
「時々、後悔します。なぜ、王都であなたに襲いかかりなどしてしまったのか…あの場で自分を押さえることができれば、出世コースから外れることも、王都を出ることもなかった」
空を見上げながら、これまで貯まった後悔を吐き出すようにイヴァンは話を続ける。
イヴァンが悪いのではない。悪いのは私だ。私が自分の気持ちだけを優先してこの場にこなかったのが全ての原因だ。
「もちろん、全て自分で選んだ道です。それにあなたには感謝もしています。狼藉を働いた私を罪に問うどころか、武官にまで抜擢してくれた。【靴を履く百足】との戦いは楽しかった。後悔はしていますが恨みはしておりません。ですから、どうかこの場であなたに刃を向けるような真似はさせないで下さい」
イヴァンにとって私は罵倒されても仕方がない存在だ。であるのにイヴァンのそれは懇願であった。恩人に剣は向けたくない。だから引いてくれ。その気持ちがヒシヒシと伝わった。
「情報は必ずネブラスカ一等執政官にお渡しします。ですからどうかこの場はお引き取り下さい」
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