第413話 失った信用が背後から私の首を絞める①
馬鹿な。何を考えているんだ。黒佐賀は。
門番に事の重大さを伝え、なんとか黒佐賀かマカートニーに取り次いでもらおうとするが一向に埒があかない。
むしろ、私が帰らないのを見て門番の数が次々と増えていく。
まるで不審人物だ。
こうなったら、昔行ったのと同じ、強行突入するしかない。そう思っていると門の中から見知らぬ男が現れた。
「お呼びじゃねーんだよ、春日井領主殿」
ぞんざいな口調で中肉中背の男が宣言してきた。
「ディズレーリ殿」
門番達から安堵の声がもれる。どうやら王城の関係者のようだ。他の門番達が革鎧などで武装しているのに対し、その男が身につけているのは薄布一枚。
なのに全身鎧を着た兵士よりも装甲が厚そうだ。佇まいに隙がなく、一目で達人だと分かる。
「今まで散々っぱら領地を留守にしておいて、まだ領主面しようってのが間抜けなんだよ」
痛いところを正確に突いてくる。しかし、今はそんなことを議論している時ではない。
ちょうど皆の意識がディズレーリに集中し、私への警戒が解けている。
【黄金気】を展開し、無理やり突破しようとするとディズレーリは瞬時に私の前に立ちふさがった。
「出力に頼った運用をしやがって…黒佐賀師匠が見たら泣くぜ。一から十まで残念女だな、お前は」
【黒気】を凝縮した強烈な蹴りをくらう。いや、ただ【黒気】を凝縮しているだけでなく、激突の瞬間、【浸透勁】でこちらの【黄金気】を抜いてきた。しかも、それを脚で為したのだ。
久方ぶりに【黄金気】を抜いたダメージを食らったため立つこともできない。
「黒佐賀が直弟子の1人、ディズレーリだ。プレスビテリアン帝国の脅威なら随分前から察知している。16領主も毎月会議してるし、直弟子もほとんどが王都に集結している。お前なんかお呼びじゃねーんだよ、愚妹弟子が」
クロサガ王国は政軍分離。軍の人間は決して政治には関わらない。よって直弟子は王城に入ることも遠慮しているという。
そうであるのに直弟子の1人が王城から出てきたということは既に防備は固められているということか。
いや、領主会議が1ヶ月に1回だと言った。そんな悠長なことを言っている場合ではない。我孫子の侵攻は確実に1ヶ月の内に始まりそうだからだ。
ダーダネルス・ガリポリに送ってくれる兵員は? 編成はどうなっている? クロサガ王国は侵攻してくるプレスビテリアン帝国の兵力をどのくらいだと想定している?
確認すべきことは山程ある。
やはり、こいつを倒してでも謁見を実現させるべきなのか。
いや、今はクロサガ王国が一致団結する時だ。私のような異物が入って場を混乱させるべきではない。コイツは信用できそうだ。情報だけ渡して後の対応は任せればいいか。
私が意思決定に参加できないのは残念だが私は軍事の専門家でもなければ、部隊の運用ができる軍人でもない。
なにより、皆の心を掴んでいないのだ。
「分かった。黒佐賀師匠にお会いできないのであればこの場は去りましょう。但し、私が久方ぶりに王城を訪れたのはある情報を伝えるためだ。私が伝えられないのであれば、あなたが伝えてくれ」
私が強行突入を諦めたと言うと露骨に門番達の気は緩んだ。しかし、次の私の言葉を聞いた途端、一様に動揺した。
「プレスビテリアン帝国が宣戦布告してきた。1ヶ月以内に侵攻してくる。その中には【魔王】も含まれている可能性が高い」
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