第30話 最強のNPCを護衛につけると聞いていたがもはや話がおかしい
夜の帳が下りた深夜、私達は行動を開始した。
エミリーはどこで仕入れていたのか冒険者然とした服装をしと腰には剣を佩いていた。
ドレス姿とは見違えていたがそれでも品格のようなものを感じさせるから不思議である。
城の見取り図に一番詳しいエミリーが先導し、私達が続く。
おそらくこうなることを予期していたのだろう、エミリーは見回り兵士の巡回ルートや交代時間まで調べていたようだ。
そのかいがあってか誰にも見つからず城内を脱出できた。
結局、あれだけもてなしてくれた王様に挨拶すらできなかった。
すんません、王様。次に来た時は必ず宴に出席しますので~
駆け足で城門まで一気に出ると、やたらごつい体格をしたおっさんが岩から立ち上がりこちらに声をかけてきた。
「おいたがすぎますぞ、姫様。さあ、お部屋にお戻り下さい」
「嫌です、ここはあなたを倒し、わたくしは自分の道を切り開きます、お師様」
そう、言うとエミリーは抜刀しおっさんに向かって剣をむけた。
「やれやれ、ようやく冥龍王も退き、エクシード王国もこれからという時になぜこのような駄々をこねられるのですか、姫様」
おっさんはエミリーから祥君に視線を移して言い放った。
「あるいはこれが元々の計画だったのですかな、ショウ殿」
「いやいや、富や財産が目的ならこのまま王位継承を受けるよ、剣王さん。生憎だがこの程度の金には興味ないんだ」
既に祥君と剣王と呼ばれたおっさんとの間には戦いの火蓋が下りている。
そんな祥君と剣王との会話に割って入ったエミリーは必死になって剣王を説得しようとしている。
やはり師匠と剣を交えるのは嫌なのだろう。言葉で説得できるならそれにこしたことはない。
「これからだからこそです、お師様。エクシード王国や周辺諸国で学べることなどたかが知れています。わたくしは他大陸で見聞を広めたいのです。いずれ必ずエクシード王国に帰ってきます」
「他大陸への留学などと前代未聞ですぞ、姫様。馬車でも船でもたどり着けぬというのにどうやって行かれるというのですか。まして他大陸にはどのような生物やモンスターがいるかも分かりません、御身の安全を保障できません」
「方法は分かりません。ですがショウ様がつれていってくれます。身の安全はあなたが教えてくれたエスクード流剣術で切り抜けます」
「やはり、剣士は弁士ではない。説得が不可能なら後は剣にて語りましょうか」
説得を諦めたエミリーが渋々と剣をグロスに向ける。
「ええ、最初からそのつもりです」
あかん、どうやっても戦闘回避は不可能だ。
せっかく城内は戦闘ゼロで切り抜けられたのに…
こうなったらやるしかないか。私も剣を構える。
うん!? 祥君は構えていない。
素手で無効化する気か!?
「どうされました、ショウ殿、構えぬのですか?それともこんな老いぼれには剣も不要と?」
「いや、さすがに3対1じゃ、やる気がでないよ」
祥君はこちらに振り返って笑顔で言ってきた。
「というわけで真澄さん、エミリー頑張って」
「ちょっと、祥君どういうつもりよ!!!」
私がそう叫ぶとすかさず内部通信(電話)が飛んできた。
(どうもこうも、こんな消化イベントに興味がないというか、オレが出たら戦闘にもならず1ターンで終わっちまうよ。だからさ、2人で力を合わせて頑張ってよ。エミリーとあの剣王グロス・アシミレイトの力はちょうど互角だ。真澄さんが加勢すればたぶん勝てるよ。白気をうまく使いこなすのがポイントだよ。元々、気ってのは窮地に陥れば陥るほど出力も上がってくるし、なにより、あの剣王は紳士だから負けても殺されることはないから練習相手に最適だぜ)
でた! ゲーム脳的判断。まあ、彼がそういうなら説得はもはや不可能だろう。私達だけでやるしかないか。
「2人に勝てたらオレが出るよ。いや、2人勝てたら諦めるといったほうがいいかな。エミリー姫もこんな剣王一人勝てないようなら冒険の足手まといだしね」
祥君が改めてグロスに戦闘への不参加を申し出る。
それを聞いたグロスは喜び、エミリーも腹をくくったようだ。
「それはありがたい。さすがに冥龍王を退けた御仁には勝てる気がせなんだねな。時間稼ぎに徹して城から応援を呼び、乱戦の中で姫様をさらうしかないかと思っておったが…」
「分かりました、ショウ様。これが最終試験だと思って挑ませて頂きます」
うーん、こいつらNPCのくせに完全に私のことを無視して状況を進めてやがる。
なるほど、これなら私がつけいる隙もあるかもしれない。
読んで頂きありがとうございました。明日も25時投稿でいきたいと思っています。よろしくお願いします。




