第287話 春日井真澄VS聖竜皇ディオクレティアヌス⑨
「【ル・ラル・ケルベルオ・ヴァイノ・ザムグンド・エンテリヴァース】は現在確認されている雷系の最強魔法の一つだ。6小節だからエミリーに使った5小節よりもさらに詠唱は長くほとんど儀式魔法だ。おまけにMPは全部持っていくくせに成功の確率は極めて低い。私のレベルじゃ、手をつけるのにまだ早い魔法なんだろう。今まで使ったのは練習を含めて7度くらいだ。成功したのは2度くらいだな。前回の聖竜皇戦はこっちが全滅しそうだったんで一か八かで出した魔法がまぐれで成功したんだ。燃費は極悪だし、成功しても失敗してもMPゼロが一ヶ月続くからできれば使いたくない」
リヒャルトシュトラウスは口調こそ荒っぽいものの真剣な顔つきで自身の最強の魔法について語ってくれた。正直、ココまでものを出してくるとは思っていなかったのでありがたい。
「雷撃魔法ではなく、雷滅魔法になるのがミソだ。二重のレジストが必要になるからプレイヤー以外は破る術を持っていないと考えていい」
その語り口は流暢だ。よほど、その魔法に自信があるのだろう。
「それじゃあ、リヒャルトシュトラウスさんはココで詠唱準備に入って下さい。エミリーと渚は聖竜皇の足止め、私とカスティリィヤさん、プランタジネットさんが盾になり…」
切り札は見つかった。後はどうやってそれを聖竜皇にぶち当てるかだけだ。エミリーと渚が攻撃することで注意を引き、私達3人が壁役となって皆を守る。そんな戦局をイメージしていた時に、リヒャルトシュトラウスから冷水を浴びせるような提案が飛んできた。
「待てよ! 手持ちの最強の魔法について聞かれたから答えただけで、使うとは一言も言ってねえぞ。そもそも、成り行きで聖竜皇と戦闘しているが、放置して逃げればいいんだ。教団の教徒が無事なら、施設はどうでもいい。第1階層なんて知るもんか。ワザワザ、危険を犯してまで戦う意味はねえ!」
本当にいまさら感のある提案だ。しかし、それでもリヒャルトシュトラウスの表情は真剣だ。飲めるわけが無いがそれでも黙ってリヒャルトシュトラウスの主張を聞く。
「さっき言ったろう、魔力の先借りをすることになるから向こう一ヶ月魔法が使えなくなるって! おめえが一ヶ月、私を護衛してくれるっていうのか? 言っとくけど、魔法の使えない私はただのゴミだぞ」
「もちろんです。一ヶ月間、責任を持って護衛します。プレイ中、幾許の不自由も感じさせないことを約束しましょう」
私はノータイムで返事を返す。もちろん、何かプランが有るわけでは無い。考えるより先に口が出たのだ。
私としては一緒に武器屋を回ったり、素材集めをしたり、領地経営をしたり、戦闘以外でも付き合ってほしいことは山ほどある。その際、一緒にいて知識やアドバイスを貰えるならお金を払ってでも一緒にいてもらいたい。ハイランカーの一言はそれだけで貴重なのだから。
「あなたはゴミなんかじゃありません、リヒャルトシュトラウスさん。そういう心にもない提案をするのも止めて下さい。ゴミみたいな人間がどうして雷系の最強魔法が使えるですか! ハイランカーとは普通の努力だけでなれるものではありません。努力の上に努力を重ね、その上に創意工夫も凝らす。膨大な時間をかけて積み上げてきた成果のはずです。そんな人間がどうしてホームタウンの崩壊を喜ぶものですか! お願いします、リヒャルトシュトラウスさん! あなたは私が守ります。今日だけで無く、これからも! だからお願いです。力を貸して下さい!」
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