第269話 最初の一歩は拉致から始めます㊴
「戦場の只中で交戦中の相手をスカウトとは…なるほど、その王器でプレイヤーキルマイスターを下したのですか…」
イグナティウスは淡々とそう呟く。その口調からでは私のスカウトに対しての反応は読み取れない。しかし、彼女は必ず私のために身を粉にして働いてくれる。そんな確信があった。
「私のようなゴミ屑をスカウトしてくれのは光栄ですが、生憎と私の望みは穏やかな生活だけです」
「いや、そんなことは無いですね、イグナティウスさん! あなたは心の奥底ではもっと活躍のできる場所を望んでいる。私には分かる」
「私以外の人間が私の何を見てそう判断したのかは分かりませんが謹んでお断り致します」
「だったら、私があなたをPKしたら言うことを聞いて下さいね」
「では、私がPKしたらあなたには二度と教団に寄り付かないことを約束してもらいましょうか」
「あれ!? ヴァレンシュタインさんには私がPKされたら教団に入るように約束させられてるですけど~」
「減らず口を…あなたの存在は危険だ。馬鹿弟子にはその約束は無かったように言い含める。安心してPKされろ!」
これまでの丁寧な物腰が一変し、そうヴァレンシュタインは叫ぶと再び、【我が身に宿る信仰者の炎】を放ってくる。
しかし、その攻撃は見切っている。
【白澄】で迎撃。巨大な白い炎は霧散し、唖然と佇むイグナティウスがそこにいる。
この隙を逃すものか! 【黄金気】によって瞬時に身体能力を強化し、接近。【黄金烈眞掌】でその情報体を吹き飛ばす。
膨大な黄金の光が彼女を包みこみ、イグナティウスは光の粒子へと変わる。呆気無く倒してしまったか!?
いや、違う! これは!! 私は瞬時にその場を飛び退くと、私が居た場所に巨大な青い炎が直撃する。
祥君も騙されたという転移スキルだ。
振り返れば焼き焦げたイグナティウスが私が居たあたりにいた。おそらく、ダメージを一定以上受けると発動する転移スキルなのだろう。しかし、その代償に自らも焼いてしまうのだろう。私が初めてイグナティウスを見た時と同じ状態だ。衣類がところどころ焦げている。
しかし、幸いなことに位置関係は逆転した。
今なら、イグナティウスを無視し祥君の元に駆けつけることもヴァレンシュタインに一撃入れることも容易いが…
いや、既に私はイグナティウスとその未来について重要な約束をした。彼女と決着を付けずにこの場を去ることはしてはならないだろう。
自分で決断し、自分で提案したことだが結果として、また、遠回りになってしまった。少しずつしか進めない鈍足の自分が嫌になる。
それでも戦闘開始前に比べれば、負けられない想いがさらに強くなっているのが分かった。
読んで頂きありがとうございました。なんとかできました。明日の投稿も頑張ります。
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