第268話 最初の一歩は拉致から始めます㊳
(申し訳ありません、真澄様。許可無く、休戦の約束をし第一線から離れてしまいました。それが一番良いと思いましたので…)
(悪い、真澄。結局、あいつらの策に乗ってしまった)
私が独り闘志を燃やしているとエミリーと渚から謝罪の内部通信(気)が入ってきた。4人の【聖女】の参戦を阻止しただけで充分なのに2人共、謝罪を入れてくる。全く何を疑っていたんだ、私は。
(二人共、お疲れ様! 後は私と祥君に任せて、そこでドーンと観戦してて!)
私はそう内部通信(気)で返事を送ると真っ直ぐイグナティウスを見た。
「我が教団の最高幹部が揃いも揃って調略されてしまったようですね。全く彼女達の信仰はどうなっているのやら」
イグナティウスは私にも聞こえるほど、大きなため息をついてそう言った。
「自分の教団の信徒を信じられないんですか? イグナティウスさんは」
「私は教団の信徒も【17聖女】も馬鹿弟子も、私を含めた全ての人間を信じていませんよ。あなたのように人間を信じるなんて気持ちの悪いことはできませんよ」
そう囁くイグナティウスの目は世界に絶望していた。あれは自分も他人も世界も一切、信用していない者の目だ。
「唯一、信徒の心の弱さと教団のシステムには若干の信頼をよせていただけです。このシステムが無ければ飢えて死ぬだけですからね…そのシステムによって生かされているにも関わらず、傍観し、ああやって観戦している…一体どんな餌を与えられたのやら…」
そう言い切ったイグナティウスはその言葉とは裏腹にどこか寂しそうに思えた。
しかし、なぜだろう。自分も他人も世界も目に映るもの全てを信用していないのなら、なぜ寂しそうに映るのか?
私はその理由を想像し、答えに行き着いた時、唇を歪ませて笑っていた。
「ふふっ…」
「何が可笑しいのですか?」
イラッとした声でイグナティウスが尋ねてくる。その表情は不快感を隠しきれていない。
「いえ、全ての人間を信じていないと言ったそばから、仲間の傍観を悲しんでいるイグナティウスさんが可笑しくて…」
答えが分かったからと言ってすぐにそれを顔に出してしまうのは私の悪い癖だ。気をつけよう。
「【17聖女】の皆さんに落ち度はありませんよ。私の友人が優秀なだけですから」
頬に浮かんだ笑みを消し、私はイグナティウスの目をしっかり見て続ける。
「あなたは全ての人間を信じきれていないと言いつつ、実態は他人に深く信頼を寄せている常識人ですよ」
そう指摘するとイグナティウスの顔は困惑していた。まるで、親にイタズラの準備を見られた子供のような顔だ。
「人は矛盾の塊を抱えていると言うけれどあなたは特大の矛盾を抱えているようですね、イグナティウスさん」
しかし、私はそんなイグナティウスの様子など無視して、話を続ける。
「あなたは先程、私は人の心を掴み、いつか大きなことを為す人間だと評価してくれた。ならば、私はあなたのような人間こそ最初に手に入れたい。自分と世界に絶望している人間なんて最高の人材だ。私の元で働けば、私だけを魂の拠り所にしてくれる。あなたが望むのならこの教団全てを私が雇いましょう」
私の語りはさらに熱を帯びていく。なんでこんないい手段を今まで思い付かなかったんだ。
考えてみれば、この教団には最高の人材がゴロゴロいるじゃないか! 彼女達を雇用し、私の領地で働かせる。教団の人間は皆、戦闘能力が高いし、教団の運営は領地経営と相似形にある。第5階層黒佐賀王国はNPCの国だ。プレイヤーはほとんどいない。対人間で無ければ彼女達も幾分、活動し易いはずだ。
「イグナティウスさん、捨てたはずの人生をもう一度拾ってみたくはありませんか? 最高の能力を持っていながらここで朽ちるのは惜しいでしょう。私が再利用してあげます。別にここを潰すつもりはありません。疲れたらまた、ここに戻って休めばいいのです。だから、もう一度騙されて私の部下になってみませんか?」
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿も頑張ります。
ブックマーク、感想、評価、メッセージ等あればなんでもお待ちしております。
皆様のポチっとが私の創作の『たまにガラケーを使うと感動とイラつきが凄い。動作の安定度、使いやすさは隅々まで作りこまれてて素晴らしいがスマホに慣れるとコピペ一個にすら時間がかかってイラつく』(意味不明)ですので何卒よろしくお願いします。




