第263話 最初の一歩は拉致から始めます㉝
ヴァレンシュタインから距離を取り、祥君は私を降ろす。
祥君がここにいるということは彼が相手をしていたイグナティウスはどうなったのだ?
そう思い周囲を確認するとイグナティウスは自らの回復に努めていた。
私と一緒に戦った時にも使っていた【共に戦う無神論者に宿る信仰者の炎】の効果か。すぐれた【回復スキル】だが移動できない欠点が大きい。自分を回復しながら、じっとこちらを見ている。
しかし、妙だ。イグナティウスはたいしたダメージを受けている様子は無い。一緒に参戦すればより有利に戦況を運べるのに、回復する相手もいないのに何を暢気に観戦してるんだ?
もしかして、聖竜皇ディオクレティアヌスから距離を取っているのだろうか。巻き添えを避けるために!
私にはヴァレンシュタインのスキルが【飼育】、なのか【調伏】なのか【使役】なのか【操作】なのかは分からないが一般的に高位レベルのモンスターを操るのは極端に難しい。
その難易度は身体の大きさや知能の高さ、総合的な強さに準じて上がっていくという。
竜を【飼育】することなど極めて難しいし、まして、高い知能を持つ竜の皇帝たる聖竜皇を【使役】することなんて一介のプレイヤーにできるのだろうか?
いや、そもそも【竜皇の使役】と【オリジナル・ジョブ】、両方を使えるなんて可能なんだろうか?
祥君のように【調伏】と【盟約】ならまだ分かる。倒した後、友誼を結び、【盟約】で協力関係になる。祥君と冥竜王はギブアンドテイクの関係で祥君は冥竜王の力を借りてるし、冥竜王は祥君から何かをもらっているはずだ。
PKする理由が冥力に関係しているとか言っていたし…
祥君ですら何かしらの代償を払っているのだ。ならば、完璧な操作を見せるヴァレンシュタインはどんな代償を払っているのか?
意外とあの儀式魔法が怪しい気がする。召喚が終わったのにあの地面に貼り付いた単語帳はまだ、魔法の光を放ったままだ。
あれを壊せば【操作】もできなくなるんじゃないか? 狙ってみるか!
しかし、そのためにもまずは聖竜皇をなんとかしなければ。そう、思って祥君と相談しようとすれば祥君の身体からまた、あの嫌な感じの力が出てきている。【冥力】だ。
周囲の空間全てが歪み、周囲の人間は酩酊したような不快感を感じる。【黄金気】の展開が弱い分、オートでHPも減少している、全く迷惑な力だ。
「冥力フル出力! 冥竜王ディベース召喚!」
そう祥君が叫ぶとまたしても巨大な竜が顕現する。冥竜王だ。しかし、エクシード王国ではその巨大さに驚いたが今改めて見ると聖竜皇に比べて一回り小さい。大丈夫なのか…
私の心配をよそに祥君は冥竜王ディベースに抹殺命令を出す。
「殺れ、ディベース。所詮、相手は聖竜の皇だ。冥竜の王たるお前とでは格が違う!」
しかし、ヴァレンシュタインは冥竜王ディベースの威容にひれ伏すこともなく、余裕綽々で返してくる。
「あら、聖竜は最強の竜種。その中でも聖竜皇ディオクレティアヌスは彼らの皇なのよ。冥竜王とは驚いたけど、所詮は野良竜の王、彼に勝てる訳はないわ。諦めて降参しない?」
こともあろうに降伏勧告まで出してきた。確かに私達2人は白い炎に包まれ、HPは急速に減っていっており、さらに目の前にはボスキャラクラスの聖竜皇! 分は悪い。しかし、その程度で諦めるほど私は由香里さんとの約束を軽んじていない。
「ふん、所詮、聖竜は善竜、殺せない竜の王だ。だが冥竜は違う。同族殺しも許された真に最強の竜種だ。聖竜とはくぐってきた修羅場の数が違う。王こそが皇を殺す! その瞬間を冥竜の獄火で焼かれながら見ろ! ヴァレンシュタイン!!」
私だけではない。祥君もまた、決して諦めておらずヴァレンシュタインに苛烈な啖呵を切った。
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