第261話 最初の一歩は拉致から始めます㉛
ヴァレンシュタインが単語帳のようなものを数枚、地面に貼り付け詠唱を開始している。戦闘中だというのに目を閉じ印を結び、棒立ちの状態だ。
それを見た祥君は弾かれたように駆けた。私も追随する。
「どっちを狙う? 祥君」
すぐ後ろを駆けながら私は祥君に尋ねる。その顔には珍しく焦りがあった。
「予定変更、ヴァレンシュタインだ。あれは儀式魔法だ。何かを召喚する気だ。あれはマズイ」
そう告げるとさらに加速していく。しかし、ヴァレンシュタインと祥君との間には既にイグナティウスが陣取ってる。
(オレがイグナティウスの相手をする! 真澄さんはその隙にヴァレンシュタインの儀式魔法を止めて!)
距離が開いた瞬間、内部通信(気)がすぐさま飛んでくる。あの祥君が秘匿性を優先して自分から声ではなく、内部通信(気)を使ってきた。
それ程、まずいものを召喚する気なのか!?
「冥桜乱数撃・部分極大」
「我が身に宿る揺るがざる信仰者の炎」
両者の戦闘は始まった。私は迷ったが大きく跳び、2人から距離を取る。同時に右腕に【黄金気】の充填を開始する。
しかし、イグナティウスが展開している白い炎がまるで自分の意思を持っているかのように私に向かってくる。
イグナティウスは真っ直ぐ祥君を見ている。あの白い炎はオートで敵を捕捉するのか!?
私は大きく右に跳ぶが振りきれない。しつこく私の背中を追ってくる。
わざと喰らってすぐにヴァレンシュタインの元に駆けつけたいが右腕に【黄金気】を充填させているので防御力が極端に弱い。
一度、【黄金烈眞掌】で迎撃するか!
私は足を止め、白い炎に向けて【黄金烈眞掌】放とうとした時、
「駄目だ! 真澄さん!」
祥君が割り込んで来て白い炎の直撃を受けた。いや、既に身体が白い炎に包まれている。イグナティウスにやられたのか!?
「祥君何で?」
祥君の身体がさらに巨大な白い炎に包まれる。しかし、ダメージを受けたのに白い炎は消えない。永続ダメージスキルなのか!?
イグナティウスがそんな私達の様子を見てうすら笑いを浮かべている。
「いいから、行って! 今はヴァレンシュタインだ!」
その言葉を聞いた以上、じっとはしていられない。確かに未だ詠唱に集中しておりヴァレンシュタインは棒立ちだ。
あれなら、私でも当てられる!
私はすぐに迷いを振り切り、接近し、渾身の力を込めて放つ。
「黄金烈眞掌!!!」
いくらハイランカーといえど、後衛のプレイヤーなら直撃を受ければ致命のはずだ。
しかし、ヴァレンシュタインはなんら怖れる様子もなく、いつもの調子でこう言った。
「残念! ちょっと遅かったわね。真澄ちゃん」
そう言い放つと手の印を解き、地面の単語帳にかざす。
「聖竜皇ディオクレティアヌス召喚」
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