第260話 最初の一歩は拉致から始めます㉚
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「結局、戦闘をする羽目になっちゃった。ごめんね。祥君」
「構わないさ。イグナティウスにヴァレンシュタイン、あの2人は必ずPKする。既にそう宣告していたからね」
そう言う祥くんは嬉しそうだ。強敵を相手にギリギリの戦闘をすることがひどく嬉しいのだろう。
「奇しくも2対2の形になったけど、真澄さんが前衛、オレが後衛でいいのかな」
「うん、私には【黄金気】があるから」
このハイランカーの中で私が唯一使えるのが【黄金気】だ。こいつの防御力なら祥くんの攻撃にだって数回耐えられのだ。
「後衛相手に距離を取って戦うのは愚策の極みだ。積極的に距離を詰めて戦い、あまり距離を取らせないように心がけてね。オレの合図で一気に仕掛けるよ。狙いはもちろん、回復術詩だ」
祥君が提案し、私が頷く。考えてみれば祥君と隣で戦うのはこれが初めてかもしれない。
【黄金気】を修得し、祥君とも戦いようやくここまでこれた。そのための力を貸してくれた恩人相手に戦闘をするのは若干、心苦しいがこれはヴァレンシュタインさんのためである。私は図々しく生きると決めたのだ。
そんなことを考えながら彼女達を見ると彼女達も戦闘前にお決まりの軽口を叩き合い、緊張をほぐしているようだった。
問題なのは声が大きすぎてその会話が筒抜けなことだが…
「先日は、一緒にプレイヤーキルマイスターと戦い、今日は私達の敵に回る。全く世知辛いゲームです」
ヴァレンシュタインはこちらまで聞こえるような大きなため息をついてそう言った。
「所詮は仮初めのパーティーでしたからね。私達は単に利用されただけです。教団以外の人間など、こんなものですよ。馬鹿弟子はまだいいですよ。私など、これで3回もプレイヤーキルマイスターと戦闘することになるんですよ。呪われていますよ」
「それはご愁傷様です。いっそPKされれば向こうも諦めるのに~」
「ようやく軽口が叩ける程、回復してきましたか。相変わらず、家族のことに触れられるとトコトン弱いですね。安心なさい、ここで彼らを下せば全て元通りです。プランタジネットやリグヴェーダもいるのです。リヒァルトシュトラウスとカスティリヤも直に駆けつけるでしょう。6対2に持ち込めばプレイヤーキルマイスターといえど瞬殺できるはずです。私の目が黒い内はあなたを見捨てたりしませんよ」
イグナティウスはそう言って軽く自分の胸を叩いた。
「そうは言ってもプレイヤーキルマイスターの実力は未知数です。馬鹿弟子、今日は本気を出すのよ」
「ええ、もちろんです。私情がかかっていますので。ここ数年で最も真剣ですよ。という訳で前衛も足りていません。アレを呼びますのでしばらく時間稼ぎをお願いできますか?」
「アレを呼ぶ気ですか…本当に本気なんですね。…あなたの入信理由は家族でしたか…矛盾することを言いますが追ってくれる家族の存在というのは貴重なんですよ」
「先生、その踏み込み方は禁則事項ですよ」
「そうでしたね。申し訳ありません、馬鹿弟子。私もあのプレイヤーキルマイスターの相方に少し影響されてしまったようですね。少し一緒に戦っただけですが彼女のように真っ直ぐに生きる人間が側にいれば、私も教団には居なかったかもと思いまして…」
「先生…」
「まあ、前回の戦闘経験がありますからどのみち私に攻撃は集中するでしょう…あなたはあなたの思った道を進めばよいですよ。私達はそれをサポートするのみです」
「ありがとうございます、先生」
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