第247話 最初の一歩は拉致から始めます⑰
「馬鹿な…なんで生きてるんだよ」
思ったより、かすれかすれの声になった。早く回復させたいと思うがアイテムが見つからない。
いや、今、回復させてもこの距離ならすぐ殺られる。駄目だ。思考がまとまらない。
畜生。HPが危険域まで減ってやがる。このアバターが死んだら私は真の役立たずだ…
苦労して【聖女】の称号を得て、何人もいる後衛の中で目立つために防御を捨てて火力に特化して難しい魔法を覚えて、最近ようやく教団に貢献できるようになったのに。
また数年レベルが上がらない日々が続く。こんなことでは新入りに置いていかれてしまう。
教団の中でも火力特化で貢献してるだ。それすら無くなったら私は…
嫌だ。現実世界に戻るなんて。教団を追い出されるなんて嫌すぎる。あんなところに戻れば私は! またゴミ虫に戻ってしまう。
「間違いなく。致命の一撃でしたがあなたの魔法を喰らうのは当初の作戦通りでしたので…」
地面を舐めている私を見る事もなくエミリーはカスティリヤの方を見て発言を続ける。
「最近、ようやく獲得した【銀気】の力によるものです。真澄様の傍らに立つ者としてこのカラーオーラの発現はとても嬉しかったですね。とてもレアな【気】のようで特性があまり知られていないようですが【銀気】は魔力を弾くのです。魔を絶ち、魔を弾く気、【銀気】。師匠曰く、これを完全に使いこなせば魔法使い相手には無敵になり、どんな敵とでも剣だけで尋常の勝負ができるとのことです」
なんだよ、それ。高位剣士に魔法が通じないなんて完全に無敵じゃねえか。
事ここに至ってようやく諦めがついた。もう、何をしたところで彼女の剣から逃れることはできない。
「もっとも完全に修得できた訳では無く、発現も不安定でまだ、戦闘に使えるほどのものではありません。死を覚悟した瞬間、あらゆる【気】は爆発的に発現するという性質を利用した一か八かの戦術です。二度やりたいとは思わない戦術ですね」
「糞野郎が…」
せめてもの抵抗で罵倒する。もっともNPXCに心があるのかどうかは分からないが…
「さて、あなたの命を取るのは容易いでしたがわざとそれはしませんでした。この意味分かりますよね?」
さっさとトドメを刺して、カスティリヤに負けちまえばいいのにエミリーは意味不明な謎かけをしてきた。
「…」
もはや、死を待つだけの身体だ。しゃべるのも面倒くさいので無言でどういう意味か考えてみたがさっぱり分からない。
私は頭は悪いのだ。そんな私が高位の魔法使いを選んだせいで教団の人間からもよくからかわれていた。現実じゃ使えない魔法と魔法着弾のエフェクトが大好きなんだよ。
「そう、ここで私の温情を見逃し、クソヤロウを倒すために回復などしたらあなたはそのクソヤロウにすら劣る存在になってしまうのです」
なっ!? PKせずに私を見逃すというのか!? そんなことをしてこいつには何の得があるんだよ。私をPKして先に進んだ方がはるかに後顧の憂いなく戦えるだろう。
「わたしくにはよく分かりませんが、あなたがたはこの写身の身体を自分の子のように大事にされている。嘗て真澄様は『養鶏場の鶏が失った可能性を再現するための分身』と表現されていました。どうかご自愛されてわたくしとあの方との最後の決戦を御覧ください」
そんなことをシレッと言いやがった。なんてNPCだよ。所詮、心の無い機械だ、なんて思っていたが私以上に思いやりの心を持っている。
こうなっては私の完敗だ。
私は回復し武装を解除してカスティリヤにこう言った。
「カスティリヤ! 絶対負けんなよ」
「約束はできかねる」
私が発破をかけるとカスティリヤからなんとも自信の無い返事が帰ってきた。
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